悪行
「中世ヨーロッパみたいな世界観で魔法と剣の世界をこの世界に反映」
「俺は変身能力を持つ」
以上。
妙な捻くれた世界観は縛りを生むことになる。
単純でいいんだ。
一見くだらない二つの条件だけど、これだけ整えば、それなりに俺が楽しめる世界となるわけだ。
俺が楽しめないとこの世界は意味がない。
そういう事で俺は今、犬になって緑豊かな平原を歩いている。
白く毛が生えそろった手を見るに、真っ白な犬だ。
たぶん、子犬だ。
そうイメージして変身したから間違いない。
道端で婦女子に見つかれば、傍に寄ってきて優しく撫でられる弱い存在だ。
「ワンワン! 」
青空を仰いで吠えてみた。
平原の先が小高く盛り上がってる。
俺はそこへ向かってひた走った。
その先は傾斜があって、下方の掘っ立て小屋に続いている。
誰か住んでるんだろうか?
俺はゆっくり歩を進めて、小屋の手前までやってきた。
入口と思しき木の扉は少し開いている。
が、扉は結構重そうな扉だ、押して空けれそうにない。
頭で俺は像を思い浮かべる。
蝿だ。
頭に蝿になる事を意識してすぐに、蝿に姿を変えた。
隙間から中に入る。
室内を見回した。
木の匂いが部屋を満たしている。
大きな窓が一つ、木でできた丸テーブルが一つ。
使い込んだ竈が一つ、かまどから伸びた外へ通じる煙突一つ。
端っこのベッドにじいさん一人。
白髪の老人だ。
鼾を掻いて横になっている。
年寄りの割りには、恰幅が良く、手足の筋肉は引き締まっている。
太い鼻梁、太い眉毛、いかつい頬骨。
年嵩だけど、何か強そうだ。
ぼーっと宙に浮かんで、甲高い羽音を上げているのにも倦んできた。
ここは一つ火付けをしてみよう。
多少心は痛むけど、道徳的な流れの物語にも飽きてきた。
なぁに、死にそうになったら助け出すさ。