前へ。
僕たちが朝、ジンクスの武器屋へたどり着くと、バンクス城の兵士が既にそこにいた。
彼等は僕たちを数人で取り囲み、無理やり拉致すると馬車に放り込んだ。
「さぁさぁ、早く行った行った」
「そんな急に」
そして、着いた先は城下町と外界とを隔てる入口。
街を囲むように続く高い壁の一角にしつらえられたアーチ状の門である。
「地図は渡しておいた。魔王を見事倒してくるんだ、さぁいけ」
「くそ~! 」
兵士が槍の切っ先を向けて、僕たちを追い払おうとする。
武器はそれぞれ持ってはいるが、多勢に無勢だし、僕たちは戦いにおいては素人。
ここは退くしかなかった。
「おいおい、まだ俺達ジンクスから初歩しか教えてもらってないのに、いきなり魔物がうろつくらしい外界に追い出されちまったぞ」
「…………」
僕は呆けていた。
元々頭の回転はそれほど速くない。
突然の事態に思考がついてこない。
「おまえら、呪われろー! 」
雄介君が城下町の方を見て罵詈雑言を飛ばしている。
しばらくして、我に返る。
どれくらい立ち尽くしていたのだろうか。
両足が棒にように強張って痺れている。
首だけ捩って、辺りを見回す。
木陰で座り込んで瓶に入った水を飲む雄介君と目があう。
「理子さんは!? 」
「足元」
素っ気無く言われて、足元を見る。
雑草の茂る足場で行き倒れた少女――じゃない。
これは理子さんだ。
彼女は力なく地にうつ伏せに倒れていた。
首だけ右に捻っているので横顔は拝見できる。
黒い瞳は大きく見開かれ、死んだよう魚のような虚ろな光を放っていた。
今にも事切れそうだ。
「理子さん、元気だして! 」
僕は彼女の傍に蹲って、励ますように言った。
「げ、元気……出して……どう……するの……」
掠れ気味だけど、声調はしっかりしている。
「え、そりゃ立ち上がって前へ前へと」
「その……森の中へ……? 」
「そゆことになるね」
目の前に鬱蒼と広がりを見せる緑の闇。
何が潜んでいるか分からない。
だけど、後門は閉ざされてしまった。
前へ進むしかないんだ。