事情。
「まず、基本を知るべきだ、君たちはここへ来たばかりだろ」
「はい」
勇み足で街の外へ出て行こうとした時、おじさんに呼び止められた。
彼はこの町で武器屋を営んでいる。
僕たちが剣などを買いにいった時、一度会ってる人間だ。
「君たちの不遇は哀れだと思っている。城のお歴々が、一年に一度行う召還の儀。これは君たちの世界から人を無作為に連れてきて、魔王と強制的に戦わせる。この大陸を席捲する魔王と魔物たちを異世界の勇者に殲滅させ、自由を勝ち取る。一見理に叶った儀式ではあるが、これまで何人もの勇者達は志半ば、この城をすぐ出たあたりで息絶えていった。王様たちは大抵そうなると最初から分かっている。彼等は魔王を倒すなどはなからする気はないんじゃ。いわば、君たちは魔族達への供物にして、王族たちの一年に一回の道楽の道具に過ぎない」
「酷い……」
鼻白む理子さんの声は静かに憤りの炎を内包している。
「まぁ、そうだろうとは思ってたよ、何で俺達みたいな高校生がそんな化け物と戦わないといけないんだよってな。城にはもっと強そうな兵士とかいたもんな」
「そういうことじゃ」
鍛冶屋の奥の部屋で僕達はジンクスの話を聞いていた。
彼はこの非道な儀式をずっと悲痛な目で眺めていた。
ある日、王様にやめるよう直談判したものの、門前払いされてしまった。
途方にくれていた彼は、ある時思い立った。
せめて哀れな異界の勇者に、戦い方だけでも教えよう。
それが不本意にも呼び出された勇者達に自分がしてやれる唯一のことだと。
ジンクスは目を充血させながら僕たちをみていた。
「う、おやっさん泣かせるじゃねーか」
雄介君はすすりあげると、涙をを腕で拭った。
ジンクスが熱く語る中、理子さんはテーブルに白い紙を置いて何かを綴っている。
「理子さん、何かいてるの? 」
「遺書よ……」
理子さんはジンクスの涙話より、先行きの見通しが暗いことに落胆した様子だった。