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一寸の真琴にも五分の魂。


 

「おい、輝、真琴の奴、俺達の家にちょくちょくきてるみたいだぞ」

「知ってる」

「え? 」

 何食わぬ顔で輝が言うので、俺は一瞬呆けてしまったが、

「何で知ってるのに、俺に教えないんだ! 」

 すぐに語気を強めて輝に問いただす。

 輝は俺の剣幕に動じた様子もなく、ため息を一つついた。

「だって、教えたら兄貴のことだから、真琴ちゃんに危害でも加えそうだし」

「馬鹿! そんなことはせん! ただ、小一時間俺の前に正座させて、世の中の道筋って奴を話して聞かせるだけだ」

「そんなんしたら、真琴ちゃん可哀想だよ、彼女の気持ちも分かってあげなきゃ」

「だってよぉ」

「人間は感情の動物だよ、それは幽霊も変わらないんだから。一方通行じゃ話なんて聞いてもらえないよ」

 輝に柔らかい口調で逆に窘められ、気勢を殺がれてしまう。

 俺が動的な性格だとしたら、輝は静的な流れを好む平和主義者。

 一辺倒に怒りをぶちまける俺とは違って、輝は仲たがいしている相手と折り合いをつけて、掘り下げられた溝をいかに埋めるかを思案するタイプだ。

「どのへんが可哀想だと思うんだ? 」

 幾分トーンを下げて輝の意見を聞いてみる。

 なんだかんだで、俺は輝に弟ながらも一目を置いていた。

「だって、真琴ちゃんはあの心霊研究所の雇われ人じゃない。雇い主の命令に従っただけだよ、それに、もしかしたら、真琴ちゃんはあの前田って人に頭があがらないのかもしれない。幽霊っていうのは色々事情があるからね」

「ふむ、一理あるな」

 なんだか折れてしまう。

「でしょう、もしかしたら、彼女、僕たちが使役する式神と同じような身の上かもよ」

「なるほど」

 前田仁と初めて会った時、何か同業の匂いを彼から嗅ぎ取った気がした。

 霊を使役する力をもしかすると、彼も身に備えているのかもしれない。


 夕方の輝の話で俺は少し心を改め、一度真琴と話し合ってみようと決意した。

 輝はできるだけやんわり口調で話すんだよって念を押してきたので、

 ノープロブレムと親指を立てて微笑んでおいた。

 

 ただ、俺はいいとしても、真琴は俺と面と話す自信はないように思える。

 俺に夢を通して何か主張をしたようだが、全くその意図が汲み取れなかった。

 起きたら既にその姿はなかったし。


 それでも、輝にはその姿をこの家で晒している。

 要は俺が怒っている事を十分知っていて、面と話す勇気がないから、あんな回りくどい夢を見せたり、俺には姿を見せず、弟から懐柔していこうと考えているに違いない。

 そこまでして俺達に付き纏うからには、俺達をあの心霊研究所へ連れて行く事も諦めてはいないだろう。まー、これは手前勝手な推測に過ぎない。ひょっとしたら、真琴は弟だけでも連れて行こうと必死なのかもしれない。俺には興味がないのかも。

 だが、俺は輝の兄貴であり、保護者も同然の立場である。

 俺は良く母から弟の素行について、相談を受け、二人の間に入り緩衝材の役割をすることだってある。弟は深夜ほっつき歩くような放逸な人間だから、母の気苦労も絶えないのだ。

 だから――弟だけあんな怪しい事務所へ連れて行かれては困る。

 弟が勝手にあの事務所に通うようになり、何かもめごとや事故に巻き込まれては母にあわす顔がなくなる。話はまず俺に通してもらって、真琴は家族の同意を得なければいけない。


 その夜、俺は部屋の隅で正座すると、手印を胸元で結び呪文を唱える。

 陰陽師の術の一つ「見固め式」を行使した。

 これは霊や物の怪から姿を隠す事ができる術だ。

 深夜、あいつはここに毎日やってきてる事は弟から聞いた。

 俺が起きていれば、真琴は部屋に入ってこないだろうから身を隠すことにした。

 ただ、俺がこの部屋にいないと怪しまれる。

 だから、ベッドにも細工を施した。

 藁人形を拵えてその上に布団をかけて、頭だけ枕の上に出している。

 これは俺の身代わり君だ。

 俺の爪と髪の毛を藁に差し入れ、俺の名前を書いた紙を藁人形に貼り付けてある。

 他の人間や霊には、ベッドに俺の寝姿が映るだろう。

 さぁ、来い真琴! とことん、俺と納得いくまで話し合おうぜ!



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