暇だ。
なんだか頭が痛い。
昨日冷たい荒野の風に当たりすぎたせいだろうか。
起き上がるのが面倒だ。
バ、バ〇ァリンが欲しい。
ベッドの横の小さなテーブルには金色のベルが載せてあった。
何かあればこれで呼び出せって事かな。
ならさっそく打ち鳴らそう。
甲高い澄んだ音が響いた。
少しして誰かが部屋の扉をノックした。
「起きられましたか? 拓様」
「うんー、ちょっときて」
テリーがそれに応じて部屋の中に入ってくる。
相変わらずの格好をしている。
大分前から起きていたんだろか。
それより、頭痛薬だ。
「バ〇ァリンある? 」
「ここに」
懐から畳紙を取り出しそれを広げると、見慣れた錠剤が2錠挟まれていた。
俺が水と言う前にテリーは、さっと部屋を出てしばらくして戻ってきた。
手には水の入ったコップが握られている。
「有難う」
俺はそれを受け取り、薬を口に放り込んで水を流して嚥下した。
ふー、これでそのうち頭痛は和らぐだろう。
テリーは肩膝をついたまま、目を床に落としている。
「飯は食ったのか? 」
「いいえ、主君より先に食べるわけには参りません」
「そうか、なら爺に、トーストでも焼いてくれって頼んでくれ、目玉焼きもだ。もちろん二人分な、ここで一緒に飯にしよう」
「はい! でわ」
一階に行くのが億劫な俺は、この部屋のテーブルに飯を運ばせることにした。
テリーは幾分、笑顔を灯して部屋を後にする。
彼も腹は減っていたんだろう。
「うまかった、ごちそうさま」
テーブルの向かいではテリーが静かに品よくパンをちぎって食べている。
俺はちぎらず噛り付くと、そのまま押し込んであっという間に食べ終えた。
白い陶器のカップに注がれた紅茶を啜って一息つくと受け皿に戻した。
窓に目をやり、テリーの顔に視線を流す。
「良い天気だ、どこか行こうか」
頭痛がなくなってきたので、外出意欲が戻ってくる。
「はい」
ナフキンで顔を急いで拭うと、テリーはテーブルの上に並べられた食器類を銀色のトレイに載せて部屋を出て行き、すぐに戻ってきた。行動が迅速なのはテリーの良いところかもしれない。
「そういや、爺と婆にはあっていないな」
「朝食を作った後、夕飯の材料の調達をするといってご夫婦で出かけていきました」
朝食を持ってきたのは、テリーだ。
壁に防音素材でも使っているのかしらないが、そのおかげで、部屋の外や階下の音は一切聞こえない。
夫婦が生活の営みの音を立てても、どこかへ出かけようともまるで気づかなかった。
逆に、中からの音は外に筒抜けのようだ。ベルの音をすぐにテリーが聞きつけてやってきたからね。
どんな素材使ってるんだろうか。
まぁ、どうでもいいんだけどさ。多少はコミュニケーションでも取っておきたかったかな。
満ち足りすぎて欠伸が出る。
太陽が高く昇ると、外に出て岩場に腰掛けてぼーっとしていた。
俺はテリーに適当に寛いでいいよと言ってあるので、足を崩して俺の足元にぼーっと座っている。
暇だなぁ。
「テリー暇だよ」
「そうですね、ここは荒野だし何にもないですから」
「うん、暇で死にそうだ」
なんとなくテリーに打開策を求めるような視線を注いで見る。
じーっとみつめられたテリーは俯いて黙ったままだ。
何か思案しているのかもしれない。
しかし、何にもない荒野の世界。俺が設定でもしないと、遊び場すらないだろう。
そういや、老夫婦はどこへ出かけたんだろうな。