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何の変哲もない朝。

 

 目が眩むような朝の光が曇り硝子を透して入ってくる。

 部屋の中は朝8時にもかかわらず、うだるような熱気に満たされていた。

 たまらず扇風機に手を伸ばして強風を部屋に流す。

 しかし、生温い風がかき回されただけだった。


 俺はいつから、今の役分に落ち着いていたんだろう。

 兄貴、気がつけばそう呼ばれることに抵抗を感じなくなっていた。

 

 弟が口を開けて、部屋の左隅のベッドで寝ている。

 8畳ほどの部屋に男二人。

 本来ならむさ苦しい環境なのに、

 俺はなぜか――ここを気に入っている。


 俺はベッドから這い出て、寝着のまま窓に近づく。

 鍵を開けて窓を開け放った。

 

 照りつける朝日に目を細める。

 ベランダにあるサンダルを履くと、光を避けるようにして、影のあるスペースに身を移した。

 その場所で両足を肩幅まで開き地を踏まえる。そして、両手を大きく天に伸ばし、ついでに、新鮮な朝の空気をしたたか吸い込んだ。これ以上吸えないところまでくると口を窄ませ息をしばらく留める。一拍おいて、両腕を下ろすと同時に肺に溜まった空気を全て吐き出した。

 

「拓兄、おはよー」

「ん? おはよ」

 隣のベランダには桃色のパジャマで身を包んだ少女が立っていた。

 こげ茶色の木製の手すりに両手を乗せて、その上に眠気がまだ残る顔を置いている。

 寝癖がついた肩まである黒髪、眠いのか瞼が大半を覆う黒い瞳。

 まだ顔も洗っていないだろう酷い顔ではあるが、やはり元の造りがいいためか、はたまた色白のせいか、見栄えはそれほど悪くはない。むしろ、子猫のようなあどけない愛嬌さえ漂っている。

 

「今日は輝とどっか行くのか? 」

 今日は土曜日、休日だ。

「んんん~……特にな~んにも話してない」

 目を擦りながら雪乃は抑揚のない調子で言った。

 まだ思考がついてきていない声質だ。

「そうか」

「う~んん、そういう拓兄はどっかいかないの~? 」

 そう来るとは思わなかった。

「わかんねーなー、気が向いたら、友達でも誘ってどっか行くかな」

「友達って隆君? 」

「そうだな~」

 俺が頷くと、ぼーっとした顔で雪乃は何か分析するかのように黙り込む。

 そのうち手を口に当てたかと思うと、

「男二人か、空しいねぇ、拓兄も早く彼女つくりなよ~」

 背中をくるりと向け、毒のある言葉を残して、欠伸をしながら部屋の中へ消えていった。

 

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