怒。
「少しは話聞いてあげても良かったのに」
「うるせー!」
あの後、突然、俺の眼前に降って湧いたように現れた男性は前田仁と名乗った。
目が開いているのか否か、分からない糸のような細い眼、背中に達するほどの黒い長髪は後ろになで上げられ、生え際が弓なりになっていた。漆黒のスーツ紅いネクタイ、黒い靴。はっきりいって真琴達がいなけりゃ、不審者認定して、逃げ去っていたところだ。
俺が首を竦めて黒い靴に視線を落とし黙っていると、彼は名刺を差し出してこう言った。
『前田心霊探偵研究所の所長をやっています』
続けて軽い事業の説明の後、前田は俺を雇いたいと言った。
今までの不可解な真琴の行動の謎が氷解した瞬間だった――
つまるところ、真琴は、前田って人の事務所の人間、いや、幽霊だったのだ。
もちろん雫も関係者だった。
真琴は心霊探偵研究所の所長である前田に頼まれ、人材を探していた。
つまり、俺達のような霊視や霊とコンタクトが取れる人間を求めていた。
あの夜も、真琴は俺と会った付近で自分の姿が見える人間がいないか彷徨っていた。
そして、俺は運悪く発見され、初会にめでたく、真琴の婉曲でいやらしい奸計の糸に絡め取られてしまったのだ。
俺はその事実を悟った時、腹の底から噴き出た荒れ狂う怒りに我を忘れ、一言彼らに「呪ってやる~! 」とぶちまけて、全くとりつく島を与えず、ぼーっと立っていた弟の手を引きその場を走り去った。
「子供じゃないんだしさ、もうちょっと何か……」
「ばか、俺は母ちゃんの子供だ! 」
屁理屈を煮え切らない輝に叩きつける。
「お前分かってるのか? 俺達馬鹿にされたんだぞ! 」
「どうして? 」
頭の回転が遅いわけはないのだが、弟はお人よしの部類に入る。
ここは兄としてきつく釘を刺して置かないといけない。
俺は目一杯、息を吸い込むと、吐き出すと同時に早口で捲くし立てた。
「いいか、よく思い出せ、俺達さ、本当に真琴のためを思って、親身になってさ、彼女の学校くんだりまで行って式神つかってまで画像撮ったり、夜明けまで議論して、彼女の死の真相を探ろうと必死だったよな? 」
「うん」
「その俺達の混じりけのない真っ白な気持ちを彼女はうまく利用して、あの事務所に引き込もうと企んだんだ。これは清純な青少年の心を操り蹂躙した背徳行為だ。分かるか? あいつは酷い奴だ。非人間だ。人間の、いや、幽霊の風上にも、風下にも、大気圏内にさえおけない悪霊だ、鬼だ、馬鹿だ、腐女子なんんだよ! 」
憤りは頂点に達し、もはや何を言っているのか分からないが、とにかく、真琴の顔はもう見たくない。この点だけは俺の脳裏にきっちり穿たれ、動かしようのない要石もとい、漬物石として未来永劫、存在し続けるに違いない。
「さぁ、式神で復讐を……ヒヒヒ」
「やめときなって! 」