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解明!?

「はい、真琴が夢に三日三晩出てきて、彼女は泣きながら事件の真相を聞かせてくれました。そして、どうか協力者である拓さんに今日会って欲しいって言われて」

「ここへやってきたんですね」

「はい」

 真琴が彼女の枕元に現れて、真下雫に協力を要請した。

 最初はそんなうまくいくわけないと内心思っていたが、まさか本当に真下雫を連れてくるとは。

『これでなんとかなりそうね♪ 』

「うん」

『じゃあ、公園にでも行って三人で話しましょう』

 真琴は嬉しそうに先を数歩行って振り返り、おいでおいでと手をひらひらさせている。

「じゃ、真下さん、真琴が近くの公園に行こうって言ってるんで、行きましょう」

「はい」

 彼女は唯々と頷き、俺と一緒に歩き始めた。

 その時だった。

 突然、目の前を黒い何かがよぎる。

「な、なんだ? 」

「ど、どうしたんですか? 」

 真下雫が驚いたようにこちらを振り返る。

 俺は黒い物体の軌道を読んで、空を仰いだ。

 見ると、電信柱の頂に黒いカラスが止まっていた。

 不吉な……

 

「そうですか、声を掛けたとき、真琴ちゃんは少しして飛び降りてきた。その時、あなたは真下にいて、押した犯人の姿は見えなかったんですね」

「は、はい、雨が降ってきたので見えなかったと思います」

「なるほど、分かりました」

 俺は一通り話しを終えて、真琴を見る。

 何か上の空で、公園の入口の方をボーっと眺めている。

『あ、話終わった? 』

「うん、終わった」

 俺の視線に気づいて真琴が声を掛けてくる。

『じゃ、世間話でもしてたら? 』

「それはいいけどさ」

 まだ会ったばかりの真下雫と何を話せばいいんだろう。

「あの、牧野さん、真琴が見えてるんですね」

 俺が戸惑っていると、真下雫が沈黙を破った。

「はい」

「すごいですね~」

「いや、すごいっていうか、うちの家系が……」

「陰陽師ですもんね」

「ん……」

 なぜそれを知ってる?

「夢の中で真琴に聞きました」

「なるほど」

 真琴の奴余計なことまでべらべらと。

 俺は少し非難をこめた視線を真琴に送る。

『ん? どうしたの? 』

「いや」

 悪びれた様子なく、彼女はきょとんとした顔で正面から俺を見据える。

 その屈託ない真琴の視線を厭い、真下雫に視線を戻す。

「いつから、霊が見えるように? 」

 すると、待ちかねたように真下雫が尋ねてくる。

「さ、さぁ、あんまり覚えていないけど、物心ついたときには色んなものが見えてましたね」

 俺は思わずしどろもどろになって、適当に古い記憶を過去から引き出す。

 真下雫の瞳には好奇の色が微かに見て取れた。


「じゃ、また今度、何か分かったらよろしく、さてと、そろそろ帰るかな」

「あ、あの」

 日が暮れてきて、腰を浮かそうとすると、真下雫が俺の腕をとって呼び止める。

「兄貴~! 帰ろうか」

 その時、公園の暗がりの向こうから聞きなれた声が。

 弟輝だった。

「輝、なぜここが? 」

 一応場所は教えていたが、公園の事までは話していなかったはず。

「ははは、ごめん、兄貴にこっそり式神を連れ添わせたんだ」

「え? 」

 輝が微笑みながら指差す方向を見ると、ベンチの後ろの叢から黒いカラスがゆっくり歩み出てきた。


「僕、弟の輝です、よろしく」

「はじめまして」

 突然の来訪者に真下雫も俺も困惑気味だ。

「輝今頃のこのこと、来れるなら最初っからきてくれよ、それに式神なんて何で俺に? 」

「ふふふ」

 何か含んだように笑って、太い眉を上下に揺らす輝。

 真下雫、俺と視線をゆっくり流すと、真琴をみやってまた俺に戻す。

「それはね、はじめっから、兄貴達のやり取りを見学するつもりだったから」

「はぁ? 」

 俺は意味が読み取れず、呆然と弟の顔を覗き込んだ。

「じゃ最初から話そうかな」

 輝がにこにこしながら、おっとりとした物腰で語り始める。


 輝は5日前の議論の中である種の違和感を覚えていたと切り出した。

「どういうことだよ、何のことだよ」

 俺はそう言われても、まるでぴんと来ない。

「なんか変だと感じたんだ、なんていうか、説明しずらいけどね、でも式神を利用して、みんなの話を一部始終聞いて、全て謎は解けたよ」

「何が分かったんだ……」

「簡単だよ、真琴ちゃんは嘘をついてた、つまり、彼女は他殺ではなく、本当に事故で死んだってこと」

「え? 」

 俺はすかさず真琴に視線を飛ばした。

『な、何言ってるの? ど、』

 真琴が慌てた様子でこちらに向き直る。

 彼女が何か言いかけると、手を突き出して輝は制した。

「じゃ、疑問に思った事を軽く、まず、真琴ちゃんを最初見たときから感じていたんだけど、殺された人間が本来持つべき、なんていうかな、陰々とした雰囲気がなかった」

 輝は周りの不可解な視線の直中にいて、淡々とマイペースに語っていった。

「確かに、殺された時の状況を語ろうとした時は錯乱したように見えたけど、僕にはどうもそれが芝居がかってわざとらしく見えたんだ。平静のあっけらかんとした状態からあまりに唐突に豹変しすぎる。幽霊にはそういう人も確かにいるけど、かなり惨たらしい殺され方したケースに限られると思うんだ。飽くまで、僕の経験した内での話しだけどね。だから、飛び降りは苦痛はあれど、一瞬だから腑に落ちなくってね……それで」

『そんなの、言いがかりだわ! 』

 真琴が続く輝の言葉を遮るように大きな声で駁した。

「そうだよ、もし違ってたらどうすんだよ」

 その勢いに気圧され、弟に弱気な視線を送る。

「違ってたら謝るだけの話さ」

 それでも弟は笑みを崩さず、臆面もなくさらっと言い放った。


「真下雫さん」

 真琴は背中を向けて腕を組んでいる。

 輝はこの重い空気を意に介さず、真下雫の名を呼んだ。

「はい」

 真下雫は怯えたような視線を足元に落として答える。

「真下雫さん、僕は悪いんですが、あなたと兄貴の会話を全て盗み聞きしていました。この黒いカラス、式神をベンチの裏に忍ばせて。式神を通して話は全て筒抜けでした。盗み聞きなんて本来僕はしない人間ですが、今回は真相を知るために必要でした。申し訳ないとは思っています、ですが、そのおかげで会話の全ては知っています。これから質問する事にできれば嘘をつくことなく答えて欲しいんですが、いいですか?」

「は、はい」

 一見、丁寧に見えるがかなり失礼な言い回しだ。

 だが、このある意味威圧的な物言いは儀式のようなものだ。

 俺はそれをすぐに察した。

 これは陰陽道に伝わる一種の呪言だ。

 頷いたが最後、彼女は真実しか話せない。

「さっき、あなたは犯人は真下から見えなかったと、兄貴が言ったら、あなたはそれを肯定しましたね? 」

「は、はい」

「そして、その理由が、雨が降ってきたからだと言いましたよね? 」

「はい」

 輝は懐からデジカメを取り出し、上から降り注ぐ白い電灯の光に画像部分を向けた。

 式神に取らせた真琴の飛び降りた現場の画像だ。

 輝は画像をしばらく順繰りに調べていたが、6番目の画像を見て、

「あ、これだ」

 と一言言い放ち、食い入るように画像を眺めながら、

「おかしいなぁ、画像見る限り、窓の下には外に迫り出した庇があって、真下のグラウンドからじゃ、絶対窓のうち側にいる犯人の姿は見えないのは明白です」

「は、はい……」

「分かりきった事実なら、ただ見えなかったと言えばいいだけじゃないですか? なのにあなたは雨が降ってて見えなかったと言い訳をした」

「そ、それは」

「あなたは本当に現場にいましたか? 」

 真下雫は、俯いたまま上目遣いで真琴を何度かちらちら眺める。

 完全に目で捉えている……彼女は真琴の姿が見えているんだ。

「いいえ、居ませんでした」

「真琴ちゃんとの打ち合わせ不足でしたね」

 輝が朗らかに微笑みを撒き散らすと、真下雫は苦笑いを浮かべた。

 真琴は観念したようにうなだれた瞬間、全ては終わりを告げた。


「兄貴も鈍感だな、せっかく親友の線香あげに雫さんは来てるのに、真琴ちゃんの母との約束ほっぽって、公園に行く自体変だと思わなきゃ」

「それはそうだけど、とにかく! な、なんでこんな面倒な事をしたんだ? 」

 俺は憤然と真琴を問いただす。

 しばらく真琴は黙ったまま、星が瞬く夜空を見上げていた。

「それはあなた達が霊を見る事ができるからよ、ね、雫」

 真琴にいきなり話を振られた真下雫。

 戸惑い気味に真琴を見るが、真琴が頷いたのを見るや、堰を切ったように話し始めた。

「わ、私も最初は半信半疑だったのですが、あなたが真琴と話しているのを最初に後ろから見ててびっくりしました。同じ種類の人間がいるんだって、しかも真琴と話せるほどの強い力の持ち主だったから……」

「だ、だからって、それと俺達を騙して、こんなとこに連れてきたのとどういう関係が」

 俺は渋面で、二人を更に追及しようとした時、

「あ、来たわ」

「良かったー」

 真琴が急に公園の入口の方を振り返って言った。

 雫も、何か安堵したように微笑を浮かべる。

 俺が少し遅れてそちらに視線を送ると、薄っすらと白い光がわだかまる公園の入口が目に入ったが、誰の姿も認められなかった。

「こんばんはー! 」

 しかし、程なく俺のすぐ近くから男の声が聞こえた。



 

 

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