輝の優しさ。
世に未練を残したために、常世の国にもいけず、彷徨う魂が幽霊だとしよう。
彼らは行くあてもなければ、寄る辺もない、孤立無援な存在。
声を掛けようにも、自らの声に気づいてもらえることは稀だ。
私はここにいる。
何で、気づいてくれないの?
気の遠くなるような年月を、そんな報われない思いを抱いて無為に過ごすしかない。
魂、それは生前の記憶と呼ばれるものと似てはいる。
だが、魂に蓄積された生前の記憶は、時の流れとともに風化していく。砂漠に降った雨が淀むことなく底へと消えていくように、一度失われた魂の記憶は戻ってはこないのだ。
今、自室でテリーや俺と笑顔で話している彼女も、いつかは記憶の全てを喪失し、自我さえ保つことができずに、恍惚とこの世を空気のように彷徨うことになるだろう。
霊と交信できるものはその理を良く分かっている。
特にうちの家系は古来から脈々と受け継がれた陰陽道の一族だ。
輝は路傍に佇む、自我が失われ、ただの浮遊物と化した哀れな魂を見ては、
顔を悲痛に歪めて、見てみぬ振りをして通り過ぎる。
彼は過ぎた後、俺によくこう話す。
『あの人にも、以前は記憶が残っていて、僕達と話す事ができたはず。できればもう少し早く、
彼と話したりして彼の事を知ってあげたかったな』
俺ははっきり言って、弟のような繊細な気持ちを持ち合わせていないから、
そんな言葉を聴くたびに、いちいち一人ひとり聞いてたら体もたねぇよ! と無愛想に返す。
だが、輝は俺とは違うのだ。
今回の件も、彼女が輝に真相が知りたいと哀願したわけではない。
輝が彼女と別れる間際、こう切り出したらしい。
『君の亡くなった場所を見てみたい』と。
これは言葉通りの意味だと俺は思う。
真琴の本当の死因を調べるために、言ったものではない。
息絶えた場所を実際目にして、彼女の記憶の断片に触れ、その存在が確かにいたことを、
脳裏に焼き付けてあげたい、そんな輝の優しい気持ちから衝いて出た言葉――だと信じたい!
この後、こんなちんけな現場の画像をもとに、真犯人を探そうなんて、どこかの探偵小説のような流れは断じてないと思いたい!
「よし、大体の様子は分かったね、じゃ、少し見解をみんなに聞こう、兄貴写真見て気づいた事、
よろしく」
ったっく、もおおおお。