現場へ。
「輝よ、学校まで来てみたはいいが、どうするよ」
「うーん、俺達他校生だし、入りにくいよね」
放課後、俺達は水川高校へやってきた。
テリーはまず、現場をみたいというのだが、中に入れなければ意味がない。
俺達兄弟は校門前で、顔を突き合わせて打開策を図るべく話し込んでいた。
「困りましたね……」
と、呟く真琴の顔は全く困っていないように見えた。
喜色を満面に広げて楽しそうに俺達の方を眺めている。
昨晩、3時に彼女の学校の校門でテリーと落ち合う約束をしたらしいが、実際俺達が来たときの彼女の喜びようは尋常じゃなかった。嬌声を上げながら縋り付いてきたと思ったら、俺達の目の前で、飛んだり跳ねたり、口を押さえて笑ったりしてたが、最後は肩を震わせてその場に泣き崩れた。彼女は俺達が本当に約束を守り、来るとは思ってもいなかったんだろう。
『何かいい案でました? 』
「いや」
「中々なぁ……」
夕日が真正面から顔に差し込んでくる。
目に染みるような眩しさだ。
俺は目を細めながら、内心そわそわしていた。
さっきから、校門から出てくる学生に訝しげな視線を受けていたからだ。
違う制服の学生が校門前にだらだらいたら、目立つのも当たり前だ。
「あんまり長居したくないな」
俺はぽつりと不満を漏らした。
「うん、だねー」
弟も同じ気持ちらしい。
そんな時、ふと、いい案が頭をよぎった。
輝におもむろに近づき、耳元で声を潜めて囁く。
「輝、お前さ、デジカメ持って来てただろ」
「うん」
「あれ、ここの制服着せた式神に持たせて、現場とその周辺を取ってこさせたらどうだ? 案内は真琴に任せてさ」
「おぉ、それいいね」
何でこんな簡単な事が浮かばなかったんだ。
「じゃ、さっそく」
輝は足元を見回し何かを探し始めた。
「お、この子いいね」
といいながら、座り込んで何かを手で慎重に捕まえる。
輝が得意げに微笑み、突き出した手の平には蟻が歩いていた。
「じゃ、ちょっと行って来る」
「え? どこへ……」
真琴が不安げに言うと、心配ない、すぐ帰るといって微笑み、輝は門の少し上の茂みに消えていった。
「お、帰ってきた」
「おかえりなさい」
「お待たせ~」
輝が帰ってきた。
「遅いぞ」
「いやぁ、結構人目があるので、苦労したよ」
そう呟くテリーの後ろには、女の子が一人寄り添うように立っていた。
ここの制服を身に纏っている。
肩までの艶のある黒髪をポニーテール風に後ろで束ねた、目の覚めるような雪白の肌をもつ美少女だ。
「おい、これさっきの蟻か? 」
「そうだよ、アヤメって言うんだ、よろしく」
「え、その子誰? 」
真琴が驚いたようにアヤメを眺める。
「あぁ、俺の式神だよ」
「式神って、まさか、陰陽師の? 」
真琴は驚嘆に目を見張って、輝とアヤメに忙しく視線を往復させている。
そして、輝を見つめたまま薄く口を開けていた。
「まー真琴ちゃん、詳しい話は後で! 取りあえず、このアヤメを現場に案内してあげてよ、アヤメはこのデジカメ持って現場の4階の彼女の飛び降りた場所と、その窓から真下の景色、
後、その周辺取れるだけとってきてね」
真琴は好奇の眼差しを輝に向けて、詳しい説明を求めているようだったが、今は一刻も早くこの場所をお暇したいので、俺は口早に二人にこちらの要求を伝えた。
「あ、うん、分かった」
「…………」
我に返ったように、真琴は俺の言葉に反応した。アヤメは俺の顔を一瞥すると、輝の顔に視線を移した。黙ったまま、輝が頷くと、真琴を見やった。
「じゃ、じゃあ、アヤメちゃん憑いてきて! 」
真琴は気後れしながらも、アヤメに声を掛けた。
アヤメは口元にぞくりとするような微笑みを湛えて真琴の後に憑いて歩く。
「頑張れよー」
「いってら~」
俺達二人は彼女達に手を振り見送った。