面倒。
「彼女は水川高校に通ってたんだって」
「水川って言えば、俺らの高校と目と鼻の先じゃないか」
俺は不承不承ながら、テリーの真琴から聞いた話に耳を傾ける。
本来、幽霊との接触自体あまり好ましいことではない。
テリーもそれは分かっている。
「かなり近いよ」
世には有象無象の様々な事情を抱えた霊達が無数に漂っている。
そんな幽霊達は俺達のような強い霊媒体質の人間を見つけると、あたかも暗闇に浮かぶ誘蛾灯に引寄せられた虫のごとく寄ってくる。
「たしか共学だったよな」
「うん」
「それで? 」
彼らは俺たちを見つけると、身近な友達のように声を掛けてくる。その内容は他愛もない世間話だったり、自らの死への不満や、自らを間接的、直接的に死に追いやった人間への復讐話など多種多様だ。ただ、どんな耳苦しい話をされても、それどまりなら、大して俺たちに負担はかからない。だが、中には、面倒な要求をしてくる霊達もいる。例えば……まだ生きている親類縁者に自らの言葉を伝えて欲しいと泣きついてくる者や、俺たちに彼らに代わってあれこれしろと凄む者もいる。幽霊とはいえ、元々彼らは俺と同じくこの世に生を受け暮らしていた人間。色々な幽霊がいて当然だ。だからといって、一々彼らの繰言に耳を貸していては、俺達は体がもたないんだ。正直言うと、最近、面倒な幽霊2,3に絡まれて多少食傷気味だ。
「彼女そこの高校で事故にあって死んだってことになっているんだって」
「ほぉ、事故ってなんだ? 」
「4階の校舎の窓から誤って落ちたらしいよ」
「なんだ、まんま事故じゃないか」
だから、極力俺も、こういう話は聞きたくないので、
適当にあしらうつもりだったんだが。
「それがね……どうもそうじゃないらしいんだ」
淡々と話していたテリーの声のトーンが一段階低いものへと変わる。
「彼女、誰かに押されて落ちたっていうんだ」
あぁきたよ。
「いわゆる事故に見せかけた殺人ってやつだな……」
「そうなんだよ、なんかさ、朝まで話聞いていたんだけど、彼女啜り泣きながら……中略、悔しいって僕に訴えるんだ……それ聞いててさ……後略」
真琴は俺と話している時も、本当、口が達者で、要領を得た運びでうまく感情を織り交ぜて話す女の子だった。テリーは彼女の哀切の篭った話に絆されたに違いない。
「ふー、分かったよ、で、どうしたいんだ、お前は」
ここまで感化されて暑苦しく語るテリーを、冷淡にあしらうなんてできやしない。
「あ、兄貴! 」
諦めて協力の意志を伝えると、曇ったような陰りのあるテリーの顔に光が差し込んだように笑顔が戻る。
「あぁ、言っておくが、分かっていると思うが、俺たちにできることなんて、たかが知れている。できない事はできない。警察官でもなんでもないんだからな、それでも良いなら、もう少し話を聞こう」
「うん! 」
厄介ごとは御免だが、弟テリーの彼女の事を親身に思う優しい気持ちも無碍にはできない。
だからといって、あまり深入りはしたくないので、一応釘を刺しておいた。
まぁ、彼女の事故現場に花でも添えてやるくらいはしてやるか。