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隆という男。

「拓、何か良い事あったのか? 」

 三宅隆が俺に唐突に尋ねてきた。

 彼は俺が唯一腹を割って話せる人間?

 俗に親友と呼べる人間かもしれない。

 学校が終わり一緒に帰宅する道々での会話だ。

「何で? 」

「…………」

 俺は質問に質問で返す。

 なんで隆がそう思ったのか疑問に思ったからだ。

 隆はその端正な顔立ちに薄い笑みを浮かべて黙っている。

 2枚目で物静かな彼は、クラスの女の熱い眼差しを当たり前のように受ける存在だ。

 まぁ、モテモテ君だ。

 だが、可笑しなことに、隆には彼女がいない。

 今日も何故か男二人で帰宅の途についている。

「…………」

 隆は何か含んだような顔のまま、宙を見据え黙然と歩いている。

「そんな気がしたからさ」

 この発言が彼の薄い口から漏れるのに1分32秒かかった。

 これなんだよな……こいつに女がつかないのは。

 隆は沈黙が長すぎる男なんだ。

 断っておくが、彼は馬鹿ではない。

 気が向いた時にしか語ろうとしない、もしくは、よく言葉を吟味してから慎重に話すタイプ。

 これは彼と長く友として付き合って導き出した俺の推論だ。

「どんな気だよ……」

 彼が悠然と黙っている間に、女の子はその沈黙に耐えかねてその場から去ることを余儀なくされる。

 結局、面と向かって彼と会話の歩調を合わせる自信がないために、女達は刹那的な挨拶や見返りを期待しない言葉を彼に投げかけるか、遠巻きに彼の美形の顔を眺めるしかできないんだ。ジャニーズ系の秀麗な顔の持ち主であるにもかかわらず、近寄りがたい雰囲気を撒き散らし女を遠ざける。言うなれば、警護の厳重な美術館の展示エリアで不本意にも、柵と警備員にびっしり囲まれ、ケースを被せられる黄金のファラオ像のような男とでもいうべきか――――柵は自前だけどね。

「…………」

 黄昏の光が正面から差込んでくる。

 眩しそうに手を翳しながら沈黙を共有する俺達。

 彼とふとしたきっかけで、友達になってから一年。

 俺はまだ彼を分析しきれていない。

 白い靄が体表面を覆っているような正体の掴めない隆。

 奇矯な存在である彼と本当に打ち解けて話せているかまだ自信が持てない。

 だから、俺は彼を親友と断言できないわけだが――

「お前は良い奴だ……親友が幸福そうにしていると俺も嬉しいよ」

 隆は何の衒いもなく、俺に微笑み親友と言い切ってしまう。

 俺の方が恥ずかしくなるような発言だ。

 だが、決して彼は冗談でそれを言ってはいない。

 彼の形のいい眉や鼻梁、口元は、本来ある位置に穏やかに留まり、今漏らした言葉が嘘でない事を暗黙のうちに示唆していた。

 


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