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いくさまえ。

「そんなの信じられっか! 」

「まだ言ってたのかタキジさん、村長があれだけ懇意にしているタオ村の奴等がわしらの村を襲うわけないだろうが」

「そうだそうだ! 」

「つまらねーこと言ってると本気で怒るぞ! 」

 タキジさんは太い眉毛を吊り上げて怒鳴った。

「この馬鹿やろうどもが、何度言ってもわからんのだな、村長は騙されてるんじゃ、お人よしだからな、お前たちはいつでも、村長の言う事を鵜呑みにしてぬるま湯につかりやがって! 」

「うるせぇよ、わしらはしらねぇよ、お前たち勝ってにしな」

 商談決裂。タオ村との良好な関係を信じて疑わない村の穏健派たちは、本日行われるであろうタオ村の奇襲の話に全く耳も貸そうとしなかった。

「あほたれがあ」

 タキジさんは拳を震わせて憤っている。

「もうしらん、勝手にしにやがれ」

「まあまあ、タキジさん、仕方ないですよ、こうなれば俺たちだけでなんとかしましょう」

 交易から帰ってきたモルトさんがタキジさんを宥める。

「なぁに、これだけいればなんとかなりますよ」

「そ、そうじゃな……わしらでなんとかするほかあるまい」

 なるほど、こんな調子だから密会を開いたんだな……

 

 拒絶派のみんなは村の真ん中の広場で集会を開いていた。

 各々、鉄の鍬や剣、鎌などを携えている。

 迎え撃つ布陣の最終調整を行なっていた。

 大分前から話し合いができているようで皆は落ち着いている。

「柵はあれでなんとかなるだろう」

 よくみると、村を取り囲む柵の補強がされている。

 今まで気づかなかった……

 以前より柵が高くなっていて、簡単に倒れないようにつっかえ棒がしつらえられている。

 奇襲を想定して、拒絶派の人々は少しずつ村の防衛強化に励んだのだろう。

 それにしても……この温度差はなんなんだろう。

 広場に集まった拒絶派の村人は、緊迫した表情で話を続けているが、それ以外の穏健派の人々はふだんと変わらない生活をしている。

 子供たちがきゃっきゃ言いながら、村の小路を走り回り、水汲み場で暇そうに井戸端会議を開いている女たちもちらほら見える。

 なんか緊張感ないなあ……仕方ないのかなあ。

 村長はずっと村会で、タオ村との良好な関係を強調していたらしい。タキジさんたち拒絶派は村会で姉御の入手した話を訴え続けたが、村長にも村人にもまるで相手にされなかった。

 タオ村が敵対関係であるとすら村の半数の人間は把握できていないのだ。

 いかな崇拝する姉御や補佐のタキジさんの言葉とはいえ、村長の言葉ほどは重くなかったらしい。

 それくらい村長はこの村では信頼されているのだ。

 しかし、その村長も行方不明なわけで……ひょっとしたらタオ村の連中に殺されていたりするかもしれないわけで。

 とはいえ、俺は姉御命なので自動的に拒絶派の仲間入りをしているが、本当のところは奇襲が起きるのかどうかに確信はもてていない。

 なぜタキジさんたちは姉御の情報を信じきっているのだろうか。

 俺は姉御にその旨を知りたくて、姉御に声をかけた。

「姉御」

「なんだい? 」

「姉御の情報は確かなんですかい? 」

「もちろんだ」

 断言しきった。

「拓は疑っているって顔だね」

「そ、そういうわけじゃないけど」

「無理もないかもしれないね」

 姉御はふーっとため息をつくと、村にある切り株に腰を下ろした。

「あまり詳しくは言えないが、私はタオ村にスパイを送りこんでいるのよ、そう理解してほしい」

「そうですか……」

 スパイ? う~ん、分からないけど姉御の言う事は正しいのだろう。

 ありえなくはない。

 あ、そうだ、もう一つ聞いておかなければ……

「姉御、俺モルトさんから聞いたんですが、タキジさんがヤシチさんをタオ村のスパイだって疑っているって……で、それで……」

 俺は言おうか迷ったが、結局、モルトさんの話をそのまんま姉御にぶちまけた。

 すると、姉御はにやりと笑った。

「あはは、あいつスパイだったんだ、確かにありそうだね、どうせ金につられてシギ村を売ったんだろうね、そうか、ふーん、こりゃおかしい、アハハハ」

 姉御は腹をかかえて笑い始めた。

 どうもその事についてモルトさんにもタキジさんにも知らされていなかったらしい。

しかし、スパイだと言われて、笑う姉御の心が分からない。

 一体どういう関係なんだ……

 それにしても、しくじったかな……もしかしたら、まだタキジさんはその事を皆に話していないのかも。

「ご、ごめん、今言った事、まだ……」

「いや、本当だ、拓」

 不意に背後から現れたモルトさんが言った。

「拒絶派の一部のものは、知っていることだ、ホタルは憑依が始まってから話そうと考えていた、なにせ疑惑が真実だと確信できたのはつい最近だからな」

「ん? モルト、 どういうことだい? 」

 姉御は笑いを引っ込めると、鋭い目つきでモルトさんに聞いた。

「ヤシチが、ギリギリで吐いたんだよ」

「ええ……なぜですか? 」

「さぁな、タキジさんと極秘に話があり、そして奴は……寝返った」

「…………どういうことですか? 」

「詳しくは話せない……だが、もう奴は……俺たちの敵ではない」

 そこで姉御が割って入った。

「ふーん、わけありか、まあどっちでもいいけどね」


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