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密会

「拓……久しぶりだね」

「姉御、いえ師匠もお元気そうで」

「ふん、姉御でいいよ」

 なんだか久しぶりに再会した姉御は以前より大人しくみえる。

「ぺっ」

 姉御は乾いた土の地面に唾を飛ばした。

 いや、唾ではない! 血!?

「ど、どうしたんですか」

「気にするな」

 よく見ると右頬も赤く腫れている。

 さっきのトウとの争いで口の中を切ったのだろう。

「拓……お前に聞いておきたい事がある」

「なんでしょう? 」

 姉御の滑舌が悪い。

 いつものきれる事のない流暢な会話、悪く言えば、マイペースに思った事をそのまま口にする粗雑さが感じられない。逡巡しているのか、姉御は後ろ手を組み右足で土をこねている。

「何でも言ってくださいよ、俺はいつまでも姉御についていくつもりなんで」

 言った後、体中がかゆくなった。

 俺何言ってるんだろ……いつまでもって。

「そうか、ふーん」

 姉御はまた足で土をこねはじめた。

 なんなんだろ、この妙の間は……

「なぁ、拓、お前、この村のことどう思っている? 好きか? 」

「ええ、良いところだと思います」

 満更嘘は言っていない。

 多少村人に癖があるきはするが、居心地はそれほど悪くはない。

「村人は余所者の俺に良くしてくれますし、長閑だし」

「ふ~ん、じゃあ、この村を守りたいか? 」

「も、もちろんですよ」

「本気か? 」

「ええ……」

「そうか……」

 一瞬姉御は俯いて間をあけた。

 だが、すぐに探るような上目遣いでぽつりと言った。

「仮に……命を……捨てるようなこと……になってもか? 」

「え……命? 」

 姉御は唇を噛んで、きっと俺を睨みつけている。

 心なしか目が潤んでいるような。

「あたしは、お前に強制するつもりはない」

「え、どういう……」

「もし命が惜しいと考えるのなら、この村を早いうちに出て行け」

「ええ? 」

 姉御は少し歩んで俺との距離を詰める。

「さぁ、どうなんだ? 」

 そんな事急に……

 気迫の篭った視線、命の言葉に、俺は怯みかけた。

 だが、俺は……村人、いや、姉御のためなら……

「俺は……この村には恩があるし、い、命を掛けるようなことに万が一なっても、ま、守り抜きますよ、姉御についていきます! 」

「そ、そうか……」

 姉御は半歩下がってくるっと後ろを向いた。

「それじゃあ、仕方ないな……拓……今から大事な話をするよ、ついておいで」

 姉御はゆっくりと歩き始めたので、俺はその後に付き従う。

 なんだろう……なぜか胸騒ぎがする……

 

 俺は姉御に従って、村の裏山にある石階段を上っていく。

 この辺りは高い木々が茂っていて薄暗い。

 幾段か上っていくと、右側に姉御は進路をとった。

 山壁に沿って細い山道が続いている。

 その山道を少しいくと、小さなお堂が見えてきた。

 木造立ての六角形のお堂には木戸が一つだけある。

「さぁ、入るよ」

「はい……」 

 古い木戸なのか、押し開ける際、扉が金切り声のような不快な音を響かせた。

 中は真っ暗だった。

「拓、もう他の人たちも着ているようだ」

「え! 」

 俺は驚いて、周りに意識を巡らした。

 た、確かに人の気配がする。

 と、その時、闇の一点で湧き出たかのように橙色の光が。

 蝋燭の光、そしてそれに照らし出された人影。

「ヤ、ヤシチさ……ん? 」

 かろうじて、「さん」を付け足す。

 俺は動揺していた。

 だが、蝋燭の周りには他にも人影があった。

 一人二人ではない……な、なんなんだ?

「きたか……」

 蝋燭の側で次に姿を確認できたのはタキジさんだった。よくみると、その周りには数人の村人が蝋燭を囲むようにひっそりと床に腰を下ろしている。

「さぁてと、皆揃ったな、話を始めようか」

 俺は何がなんだかわからなかったが、姉御が黙って腰を下ろしたのでその隣におずおずと座った。


「ホタルの話によると、明日の蛇の刻、タオ村の奴等が襲撃をかけてくる! 」

「…………」

 村人たちはとくにざわめく様子もなくタキジの話を聞いている。

 しかし、俺は狼狽しまくっていた。

 シギ村が明日の夜、タオ村から襲撃を受ける!?

 なぜ? どうして? いきなりなんで?

 頭が混乱してくる。

「村長がいなくなったので、わしが代理として指揮を勤める、それで……」

 村人たちはタキジの話に険しい表情で聞き入っている。

 俺は戸惑いを隠せない。

 どういうことだ?

 混乱した頭で思考する。

 何かこの状況を理解する糸口は……

 そ、そうだ――モルトさんの話だ。

 タオ村……シギ村と敵対関係。

 シギ村の拒絶派。

 俺はすっとろい頭を酷使して、散らばっている記憶のピースをかき集める。

 しばらくして、断片的な情報をなんとか繫ぎ合せ一つの結論を導き出した。

 タオ村の干渉を嫌う拒絶派の首領はタキジさんだ。

 そのタキジさんが姉御から情報を得て……

 ど、どうやって……いや、それはおいといて――

 とにかく、タオ村がシギ村へ明日、襲撃をかけてくることを知った。

 そうなると、村を守らなければならない。

 たぶん、それで集会をここで始めることにしたんだろう。

「拓、ヤシチ、ホタルを先頭にして――」

 名前を呼ばれて思わず首肯した。

 体に寒気が迸って一瞬震えがくる。

 俺は姉御の横顔を見た。

 姉御は……俺の強さと覚悟を認めて、この集会に誘ったに違いない。

 名実ともに俺はこの村の一員に迎いいれられたのだ。

 しかし――――

 村人の様子からして、この話は大分前から拒絶派の連中には分かっていたようだ。

 つまり、姉御はどうやったか知らないが、その情報を手に入れていた。

 姉御はタオ村に何かパイプを持っているんだろうか。

 まぁ、それは後で聞いてみるか……

 それより、こんな大事な話を拒絶派は村会で話せばいいのになぜこんなお堂で?

 明日の夜襲撃がくるのに、襲撃の前の日にさえこそこそと集まる理由が分からない。

 そして……モルトさんの話が本当なら、ヤシチはタオ村のスパイ。

 タキジさんはヤシチを疑っていたはずだ。

 なぜこの集会に参加させているんだろう?

 

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