モルト。
「俺はもともと交易を生業とする流れもんの商人だ、うまい話があればどこにでもいく。今はこの村とタオ村、他にも2,3の村を毎日のように行き来している。そのおかげで、シギ村とは懇意にさせてもらっていて、今ではシギ村の村会にまで参加を許されている」
どおりで村人たちに厚遇されているわけだ。
「だから、俺は村々の事情にも詳しい。もちろんシギ村のこともな」
モルトさんは両手を組み合わせて続けた。
「この辺一帯は、中央の帝都から見れば辺境の地にあたる。つまりあまり目の届かない場所にある。だから、中央に近い村と比べると独立性が高いとも言える。そして、この辺りで中心になる村はタオ村だ。タオ村はこのあたりの点在している村の中では一番栄えていて、他の村への影響力も強い」
俺は頷いて理解の意を示す。
「タオ村の村長はその利をいかして、あちこちの村に支配的な干渉を続けている、俺が他の交易商に聞いた話では、クラ村という村がタオ村の近くにあったのだが無くなったそうだ。どうもタオ村の圧力を受けて村の存続が途絶えたらしい。どういった事をしたのかまでは分からないが……」
モルトさんは大きく息を吐いた。
「だが、クラ村が潰されたのは事実だ。周りの村々にこの話はあっというまに流れた。そして、それから他の村々はタオ村を脅威に思い警戒し始めている」
「なるほど……」
「しかもだ、最近、タオ村が帝都とも手を組んだという噂もあるので、他の村々は戦々恐々としている。それはシギ村も例外ではない。事実、この数年、シギ村へタオ村の人間がやってきている、貨幣の流通に関してもシギ村に積極的に勧めて来ている。それはどうやら中央の意向をうけて、行っているようだ」
「あぁ、タエちゃんからその話は聞きました」
「タエが? あの子は見かけによらず好奇心が強いからな」
モルトさんは薄っすら笑みを浮かべた。
「えーっとどこまで話したっけ? 」
「村々がタオ村を恐れている……って」
「そうだ、それでな、こっからが本題なんだが……」
モルトさんは薄笑みを消して唇を引き結んだ。
「シギ村もタオ村の干渉に脅威を感じている人間は何人かいる。村長はあのとおりの人だから、できるだけ穏便に取り計らいたいようだが、タキジさん他数人の村人はタオ村の干渉を嫌っている。そんなだから、時々村会でも荒れるんだ。積極派、穏健派と慎重派、拒絶派の間で言い合いがおきることもあるんだ」
「はぁ……」
あの村人たちじゃなぁ、色々揉めるだろうな。
俺は自分が受けた扱いを思い出しため息をついて目蓋を閉じる。
だが、目を開けると、モルトさんの顔が鼻先にまで迫っていた。
「なぁ……それで、こっからが重要なんだが、お前さ、この前のウーフ神の祟りで起こった殺傷沙汰についてどう思う? 」
声を低くしてモルトさんは続けた。
「なんかおかしいと思わないか? 俺はさ、正直いうと、ウーフ神なんぞ信じていないんだよ」
「あ、俺もです……」
「そうかそうか、お前もか! なら、ぶっちゃけて話せるな」
同好の士でも見つけたようにモルトさんは俺の肩を叩いて笑ったが、すぐに口に手をやると声を潜めて言った。
「簡潔に話すぜ、俺はな、あの襲撃はタオ村が一枚噛んでいると思うんだ、ウーフ神の祟り? そんなものあるわけない。俺はこの目にしたもの以外は信じないことにしているんだ。」
「なるほど」
「そこで、ヤシチだ……」
「え? 」
唐突にヤシチの名前がでてきて面食う。
「俺はな……あいつは、タオ村のスパイじゃないかと思っているんだ」