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皇女。

 このままでは肩身が狭い。

 雪乃の機嫌云々の話だけの事じゃない。

 同じ屋根の下での共同生活で男女男の比率。

 その唯一の女が片方の男と恋仲になっている。(直感)

 端的に言うと、居づらいんだ。

 俺はここではテリーはともかく、雪乃からすれば邪魔者に過ぎない。

 一時期の怒りが和らごうとも、どっちみち雪乃にとって余計な人間だ。

 つまり、男女男の比率が無理がある。

 俺にも女がいれば、戦況が変わってくる気がする。

 そこで――

 『美人で禁色の長い髪の落ち着いた女性、年は俺と同い年、この大陸のジグルト帝国の王子である俺の婚約者、俺の気ままな旅の連れとして俺が無理やり連れまわしている』

 

 とまぁ、とってつけたような設定を加えてみる。

 従者従者といっても、何でテリーが仕えているのかをはっきりさせないと、理屈が通らないと思ってね。ただ、これを確定すると、この荒野のどこかにジグルト帝国が発生する。何か面倒なしがらみを作ってしまう。けど、まぁ、俺の気持ち次第で撤回消去できるし、一度試しに成立させてみる。


 俺は確定を押した。

 

「拓様、一緒に食事に参りましょう」

「しかし、雪乃が」

 金色の背中まで伸びた髪を後ろで束ねた、雪白の肌をもつ眉目秀麗な美女。

 名前は……?

「大丈夫ですよ、拓様、この氷雨にお任せください」

「おぉ、そうか氷雨よろしくな」

 氷雨か、ジグルト帝国って横文字の王子の婚約者にしては和風な名前だな。


「た、拓様」

「ん? 」

「先ほどは、し、失礼いたしました。拓様がジグルト帝国の王子様だなんて知らなかったから、私、テリーと氷雨さんに教えてもらって……ご、ご無礼お許しください」

「よきに計らえ」

 ハハハ、雪乃が態度180度変えたぞ。

 設定が世界に浸透して、ようやくテリーが俺たちの素性を打ち明ける事ができたんだ。

 氷雨が俺の婚約者であることは、従者であるテリーが知っているのは当然。

 彼女が現れた事で、何らかの理由で素性を隠していたテリーが雪乃に真相を話したに違いない。

 テリーには内緒で、今までミニマムの魔法で氷雨を俺が小箱に入れて持ち歩いてたということで、話は通っている。都合の良過ぎる話だとは思うが。


 身を小さくして食事を取る雪乃を見てると、なんだか滑稽だ。

 だけど、白い純白の豪奢なドレスを着たまま、こんな丸テーブルで、身を寄せ合って済まし顔で味噌汁を啜る氷雨の姿もそぐわないな。俺の嫁ってことは、どこかの皇女だろうから、仕方ないのかもしれないが、今の服装は場違いだ。

 よし、携帯で、

「ちょっとトイレしてくる」

「はい」

 

 『氷雨の服を、淡い青のワンピースに変えろ』

 確定。


 トイレの水を流し、席に戻る。

 うん、こういう家庭的な場所ではこのラフさがいい。

 俺だって家に居たときと同じ半そでに綿パンなんだし。

 俺も氷雨も王族なので、身分を考えると、不釣合いな格好ではある。

 まー、お忍びの旅ということにしているから、これはこれで問題ないのかもな。


「拓様」

「あぁ、氷雨よ、俺の呼び名は拓でよい」

「え、じゃその、拓……」

 氷雨は頬を赤くして、恥ずかしそうに俺の名を呼び捨てた。

 その様子を雪乃が顔を伏せたまま、物珍しいものを見るように上目遣いでちらちら視線を投げてくる。対照的に、テリーは落ち着きはらって、屈託ない微笑みを満面に湛えていた。

「どうした? 氷雨」

「父が今日こちらへ尋ねてくるそうです」

「ん、どうやって連絡取ったんだ? 」

「私の一族は念話で交信ができます。先ほど頭の中で父と話しておりました」

「ほぉ」

 そんな特殊な力を持っているのか。

 俺が付与したわけでもないのに、うーん、嫌な予感がするな。

 これまでの経験上、携帯である世界観を形作ると、その世界に似つかわしい環境が勝手に反映されてしまうんだ。またややこしい事にならなければいいが。

 



 

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