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襲来。

 

「もうすぐだ」

「は、はぁ……」

 俺はモルトさんの背中を追いながら、森の中を走り抜ける!

「…………」

 なんて格好いいものではなかった。

 背中と腰が痛い上に暗いし足元悪いので、途中で転んだり、つんのめったり、大木にぶちあったりとさんざんな目に合っていた。

 モルトさん一体なんなんだよ。 

 あーやだやだ、これだから迷信にとらわれた人々は嫌いなんだ。

 ウーフの鳴き声が不吉だ? そんなのあんたの勝手な思い込みだよ。

 何で俺がそれに付き合わされて走んなきゃいけないんだよ。

 かったりぃ。

 散々頭の中で愚痴を並べつつ、そろそろ現実世界に帰ろうかなっと考え始めた頃、モルトさんが俺を振り向いて叫んだ。

「森の出口だ! 村の方が騒がしい! なにかあったんだ」

 気持ちがたるんでいる時に意表を突かれ、動悸を覚える。

「な、なにが」

「ちょっと待て! 」

 俺とモルトさんは立ち止まって、状況を見極める。

 村の方角を見ると、松明の光があちこちで忙しなく動いている。

「行くぞ! 」

「はい! 」

 モルトさんが再び走り出し、俺は後に付き従う。

「なんてこった、門がぶっ壊されている」

「な、なにが」

 門前で呆然と立ち尽くす俺たち。

 その間にも村の中から女性の悲鳴や子供の泣き声、男たちの怒声が聞こえてくる。

「い、行きましょう! 」

「ま、待て! 」

 俺は真っ先にホタルちゃんの事を思い出し、焦って中に飛び込もうとしたら、モルトさんが一喝した。

「下手にはいるな! 村の中は何がいるかわからねぇ、それにこの暗闇だ! この混乱の状態で踏み込んだら、俺たちが袋叩きにあうかもしれねぇ!」

「く……」

「柵の外側をつたって、中の様子を探ろう」

「はい! 」

 俺たちは村を囲う柵に沿って歩み、柵越しに中を窺う。

 すると、柵の内側から子供のすすりなく声がした。

「だ、誰かいる、周りに人はいないようだ、ここから中にはいるぞ! 肩車だ、壁にはりつけ! 」

「は、はい」

 言われて柵に密着すると、モルトさんは竹かごを地面におき、俺の肩を足場代わりにして柵を越えた。

「…………」

 あれ、俺はどうすれば?

 一人置いていかれ戸惑う俺に、中からモルトさんが叫んだ。

「ロープをそちらに投げる! 」

「は、はい」

 ロープ? そんなの登れるかな……

 不安に思って壁の上部を見つめると、何か黒いものが飛んできた。

 俺はランプと荷物を置いて、必死の思いでロープに組み付いた。

「よーし、引っ張るからな、あんまり動くなよ、全身でしがみついておけ! 」

「は、はい! 」

 ギシギシと音をたててしなるロープに必死の思いで抱きつく。

 ああ、鎧邪魔……

 滑るのだ。

 いくら軽量タイプだからって普段着にするのは間違いだった。


「な、なにがあった? 」

 柵近くの低木に身をかがめて、すすり泣く少女にモルトさんは低い声で問いかけた。

 女の子はひっくひっくと嗚咽をあげ、小さな体を震わせている。

「だ、だれ? 」

「俺はモルトだ、こっちの奴は最近やってきた傭兵の拓だ」

「あ、モルトさ……ん」

「お前はキイチのところの、ミナだな」

 少女は泣きながら頷いた。

「なにがあったか、簡単に話してくれないか」

「…………」

 嗚咽を押さえ込む様にミナは一度俯いた後、顔を上げた。

「く、黒いへんなのが……いきなり……それでお母さんが……」

 最後まで言い切らないうちに、ミナはモルトさんに抱きついた。

 

「おーい、俺だ、モルトだ……」

「あ? お、誰、あ、モ、モルトさんか」

 村の人々の息が荒い、明らかに殺気立っている。

「な、なにがあったんだ? 」

「黒い生き物が……」

「あーー! 」

「ど、どうした!? 」

 話を続けていると、突然、男性の悲鳴が人々の背後で聞こえた。

「あ、足を……やられた」

 村人数人で声のした方へ駈けていき、松明の光で照らすと男が苦悶の声をあげ足を抱えて倒れている。

「やろう、ちょこまかと! 」

 この声はヤシチ……

 目でその姿を捉えようとしたがもういない。

 なにかを追っているようだ。

 だが、その後やってきた人間の勇ましい声を聞いて俺は驚愕した。

「どこいったあああ! ヤシチ! あいつらはどこだ! 」

 激しい怒気をはらんだその声の主の姿が松明の光に触れちらりとみえた。

 あの真っ赤な着物は……もしかして……ホ、ホタルちゃん?


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