トレード。
ちょっと文章の練習のために、色んなシーンをここで書きます。
いつものとおり物語の流れは気にしないでください。
隆弘は詰まらない人間なので、違う人間に乗り換えることにした。
仮想世界の日本で、現実の俺のコピー体に乗移り、憑依する人間を探した。
まあ、俺はこの世界では神なので、憑依なんてしなくてもあっさり相手の体と同一化できるのだが、敢えて便宜上憑依という形態をとっている。
しかし、俺に憑依されるということは、された人間は完全に俺になるわけで、前の人格は消えてなくなる。
俺が離れた後、その体がどうなるかについては興味はない。
しかし、この時代は昭和時代である。
昭和という時代の事がまるで分からないし、土地勘のない俺には、心許ない世界だ。
そういうことで、俺の頭に昭和時代の知識と、この辺りの地図のインプットする。
もちろん携帯でその作業は瞬く間に完了した。
これで俺ももう立派な昭和人である。
子供が歩いている。
そうだ、俺も俺の意識のまま、相手に乗移ってもなんだか面倒なので、
彼の意識を封ずることなく、彼の体と心に同一化して彼とともに行動してみるかな。
「聡ちゃん、あそぼ」
タケはでかい声を張り上げた。
聡ちゃんの家はいつも鍵がかかっていないので、誰でも入れる。武は他人の家だということなどおかまいなしに、靴を脱ぎ捨てると部屋の中へ入っていった。
テレビの画面では白いユニフォームをきた野球選手が映し出されている。
高校野球だ。
タケは詰まんないもの見ているなと思った。
「今ピーエルと試合やっているんだよ」
「ふ~ん」
タケは高校野球には目もくれず、室内を物色し始めた。
机が二つ並んでいる。
聡ちゃんとその妹の祥子の机だ。
机の上は奇麗に片付いている。
と、そのとき、壁際にぶら下がっていたカバンからタケは思わぬものを発見した。
聡ちゃんの通知簿だ。
「通知簿やん、ちょっとみてええ? 」
「いいけど 」
聡ちゃんはそっけなく言った。
野球を見るのに忙しいらしい。
タケは内心ドキドキしていた。
この近所ではガキ大将として、何でも思うがままのタケだったが、
いくつかコンプレックスを持っていた。
その一つに通知簿の成績が悪いことがあった。
今年、夏休み前に受け取った通知簿はオール2だった(最高5)
普段から馬鹿にしたり、頭悪いと内心蔑んでいる聡ちゃんが
自分より上の成績だったら、どうしよう。
タケは生唾を飲んで、聡ちゃんの通知簿を開いた。
11112221133322221
「こうちゃん、3あるんか凄いな」
「そう? 」
3がないタケは悔しかったが、自分が2の評価を受けている科目で聡ちゃんが1なので、ある意味ほっとしていた。
プラスマイナスでイーブンだと勝ってに納得して、通知簿を閉じた。
聡ちゃんの家をでると、タケは一旦家に戻ると大きな金属製の箱をもって戸外へ飛び出した。
駐車場裏の小路を忍者のように走って、辺りを確認しながら坂上へ上がっていく。
「サト君いますかー? 」
「なんや? 」
タケよりひと回り小さなサトが出てきた。
「あのなー、トレードせーへんか」
タケは家からもってきた箱を開いた。
そこには筋肉マンというアニメのキャラを模ったゴム人形が沢山入っている。
「う~ん」
サトちゃんは迷っている風なので、タケは赤い人形を指でつまみあげていった。
「これマウンテンやで、しかもブヨブヨしたゴム人形やで」
「へー」
「そのへんでは売ってないで」
「お~、じゃ、ペンタゴン人形と変えよ? 」
「ばかいえ、ようみてみ、このゴム人形大きいやろ」
タケはいかにこの人形に価値があるか、希少性や、材質の部分を訴えた。
「そうやなー、普通の人形の5個分くらいの価値あるわなー」
「ええー」
「まあ、よく考えてや、ゴム製の人形でこの大きさやから、なかなかてにはいらんで」
タケは下からサトの表情を観察していた。
もう少しで落ちそうなのだが、まだ渋っている様子だと感じ取ると、
「よし、じゃあ、この人形もつけるから、その5体と交換でどうや? 」
「おっけー」
タケはしてやったりと、喜びに打ち震えていた。
「じゃあ、俺帰るわ」
「うん」
サトの気持ちが変わらないうちにタケはその場を走り去った。