説得成功。
高志さんに正直な思いと願いを誠意を持って伝えた。
ここを取り仕切るには俺では荷が重いということや、この世界で未成年が生きていくには苛酷だという訴え。方向性のない現状を打破するには、頼りになる大人のリーダーシップが必要だという切迫した現状。
淵源に他力本願の考えがあるのと、一部真実を曲解して伝えてはいるが。基本的に間違った事を言ってはいないつもりだ。
途中から目を閉じて神妙な顔つきで高志さんは聞いていたが、ふいに目を開けるとその顔つきは穏やかなものに代わっていた。
「大体の事はわかった、役に立てるかどうか分からないがベストを尽くすよ」
「有難うございます! 」
俺は顔を伏せて目に手をやった。
「本当に助かります」
「君も大変だったんだな、だけど、俺も今日から君たちの一員だ、ともにこの状況を乗り越えていこう」
迫真の演技が奏功したのか、高志さんはあっさり俺の意図するポストを引き受けてくれた。
普通ならこうはうまくいかないだろう。高志さんが記憶喪失だという設定が彼が本来なら捉われるであろう現実社会とのしがらみを断ち切り、すぐに元の世界へ帰ろうという気を起こさせない事が成功の前提としてまずある。その上で、未知の世界に引っ張り混まれたという共通した不遇が、高志さんに共感をもたらし協調意識を呼び起こしたに違いない。