流転。
「この世界はなんにもなさすぎだわ」
「そりゃあね~、荒野だからね」
アンナは日が暮れる前には帰ってきた。
長めのソファーに体を横たえて寝そべりながらつまらなさそうにしている。時折向かいのソファーに座っている俺に面倒くさそうに一瞥をくれた後、一言ぼやくを繰り返していた。
「家が欲しいわ、私共同生活苦手なのよね」
「そーかい、じゃあ、家を作ってあげよう」
「そんなこといって、家を作るなんて簡単じゃないわ」
彼女は目を細めて、俺に疑いの眼差しをくれた。
あなたみたいなひょろい男に家なんて建てられるわけないわっと馬鹿にするような目だ。
だが、今更俺もそんなことで息まくほどフレッシュな男でもない。
欠伸をしながら、携帯に文字を打ち、
「アンナ、外に家作ったから見ておいで」
何の感情もこめずに淡々とアンナに言った。
「えーなんでこんな家できてるの? どうやったの? 」
「まー俺魔法使いだし」
「そんなわけ……」
アンナは半分口をあけたまま俺と家を交互にみていたが、程なく家の周囲をぐるぐる回り始めた。
面倒くさいから塔みたいな家と携帯に打ったのだが、こんな地味な造りでもアンナの好奇心の対象となるらしい。
「どんな風になってるんだろう……」
やがて彼女は扉の前に立ち止まってひとりごちた。
「中みてこいよ」
「そうするわ!」
自宅に戻った俺は人心地ついて、ソファーにだらっと背を預けて目を閉じた。
なにやら気が重くなってきていた。
女二人をこの世界に創造したのは良いが、その後の事を考えていなかった事に今更ながら気づいたからだ。
彼女達を創造した俺には、それなりに義務というものがついてまわる。
生きた人間を荒野に呼び込んだからには、彼女らに快適な生活や人生を送ってもらうために何かを果たさなくてはならない。
俺一人飄々と気ままに日々暮らすなどできないのだ。
アパートの大家と同じく設備の維持や掃除、水回りなど住人の生活に一定の義務を負う。
そういうのを考えると、なんだか面倒くさくなってきていた。
頭の片隅に染み出てきた暗い衝動が、早くも俺を急かし始めている。
『彼女達もろとも、世界ごとぶっ潰しちまえ! 』
俺の指先はするすると蛇のようにソファーを伝いテーブルの上の携帯に伸びていく。
だが、その時どこからか別の声が聞こえて俺を諌める。
『毎回毎回お前はなぜそんなに飽き性なんだ、数多の世界と罪のない人々を事も無げに葬って良心は咎めないのか? お前は鬼か? 』
確かに俺はあまりにも無責任に世界を創造し、面倒になったらパソコンのキーボードのデリートキーを扱うように世界そのものを削除してきた。闇に葬られていった数々の魂は、何処へ消えていったのだろうか。いくらこの仮想世界で神のような存在であるとはいえ、そんな横暴が許されて良いのだろうか。
そしてなにより、この無意味な死と再生の繰り返し自体に飽きてこないか?
しばらく顔を右手で覆って自問自答してみる。
が、はっきりとした答えは浮かばなかった。
いや、考えたくもないが正解か。
閑話休題。
思考を一旦停止して宙をぼんやり眺める。
増幅した負荷によりブレーカーが落ちるように、俺は考える事をやめた。
そうすることによって、過去の記憶から無意識のうちに都合のよい方法が浮かんでくるを俺は知っていたのだ。
「まーだから、高志さん、そういうわけで頼むよ」
「いきなりなんなんだ君は、大体ここどこだよ」
そして、新たな男性がこの世に生れた。
頼りになりそうな人間だ。
結局――俺の頭脳がはじき出した答えは、相も変わらず 『 他力本願 』だった。