気だるい話。
そのまんまです。
「拓さん、食事できました」
「ありがとう」
ブラウンに塗装された丸テーブルを囲んでの朝の食事。
結局、また安全な住居を携帯で創り出してしまった。
玄関入ってすぐの場所にキッチントイレ完備、奥はL字型の壁になっておりそれぞれの辺にドアがついていて、俺と愛ちゃんの寝室になっている。外観は白塗りの壁に陸屋根といった、こじんまりとした簡素な建物だ。
ガス、水道、電気などは、得体のしれない無限貯蔵庫から引いていることになっている。そのへんの仕組むは考えるのも面倒なので、そういうものがある! と携帯にうって現実のものとした。
まぁ、相変わらずの無計画さで女の子を生み出し、俺とその娘のために家を建てた。これからなにをしようかなど微塵も頭のスケジュール表には書かれていない。全くの白紙のまま同棲生活が始まっていた。
「愛ちゃんは何処から来たのか思い出せた? 」
「さ、さぁ」
彼女にそんな記憶がないことは百も承知。
だが、敢えて毎日同じ質問を投げかけていた。
「俺ってさ、愛ちゃんとはどういう関係なんだろうね? 」
「わ、分かりません」
「覚えていない? 」
「は、はい」
それも彼女に分かるわけがなかった。
『彼女は記憶喪失で過去の記憶すら失われた若い女性であり、
なぜか、傍には世話焼きの俺がいる。
俺の事はよく知らないが、彼女の潜在意識はなぜか俺の事を安全だと認めている』
彼女を創造するときに携帯に打った文面はこれだけなのだ。
「それにしても、拓さんは魔法使いみたいですね、こんな建物を一瞬で造るなんて」
「まー、そんなもんかもね」
愛ちゃんはそれを聞くと、心底安心したように微笑んでスープを啜った。
「どうしたの? なんか急に機嫌よくなったみたい」
「いいえ、別にそんな……」
彼女は取り繕うように慌ててスプーンを置いて、首を横に何度も振った。
「ただ……私」
「ん? 」
「この世界で生きていく自信ないし、拓さんみたいな人いて頼もしいなって」
言われて俺もなんだか照れくさくなって、
「ちょっと外の空気吸ってくるわ」
ばたばた扉を開けて外へ出て行くしかなかった。