緊張。
俺はこの学校では本当ろくなことがなかった。
一年のときは苛められて、二年の時も苛められて、
三年の時も……
苛め地獄を耐え抜いた暗黒の中学校生活。
あの暗い過去をどうにか変えることはできないか。
たらればなのも、後ろ向きな愚行であることも分かっている。
しかし、一度あの凄惨な過去を変えることができるのか試してみる。
中学校入学の初日である。
俺は教室に入り、入り口に一番近い縦列の一番前から4番目の席に座っている。
周囲には面識の薄い生徒達が、緊張した面持ちで先生の話を聞いている。
教壇に立つ先生は、太ってはいるが体はがっちりしていて、潰れたような鼻の横にはでかい黒子を貼りつけている。きびきびした口調からは、生徒達になめられてたまるかみたいな意気が滲み出ていた。
俺は先生の話が学校が終わるまで続いていればいいのにと感じていた。
先生が造り上げた緊迫したこの静寂がなくなれば、周りの生徒達はこの新しい生活の場で、己の快適な地位を確保するために様々な主張を周りに投げかけ始めること請け合いだ。
いっちゃなんだが、俺は小学校の時は無口な人間で通っていた。
人と歓談することはおろか、能動的に話しかけることすら自信はない。
だが、そんなことは他人の知ったことではなかった。
「俺田島、よろしくな! 」
「え……あ、よろ……」
突然の挨拶を受けて俺は何を言っていいか分からず、何か口走りながら握手を交わした。
田島にぎこちない微笑みを返そうとしたときには、彼は他の人間に顔を向けていた。
俺は休み時間を迎えると、焦った素振りで教室から抜け出した。
戦線離脱ではない。
一度、気を落ち着かせて作戦を練らねばならないと思ったからだ。
過去の俺は、この後の初対面の攻防をしくじったために暗黒の中学生活を送るはめになった。
絶対同じ轍を踏むわけにはいかない。
俺は今、誰も来ないであろう人気のない階の大便専用トイレで束の間の安寧を手に入れていた。
休み時間は10分だ。
ここまで来るのに2分を費やしているから実質8分しか時間は残されていない。
俺は考えた末に、携帯であるアイテムを作成した。
一見、それはただの腕時計に見える。
だが、これには時間を操る機能が付与されていた。
なぜこんなものを作ったのか。
答えは簡単だ。
俺は不器用な人間だから一回や二回で理想な言動をとることは不可能に思えた。
だから、しくじった場合、これを使って時を遡りやり直すのだ。
これさえあれば、暗黒の中学生活を変えられるはずだ。
いや、変えてみせる!
キンコンカンコーン。
懐かしい響きを耳にすると、途端にわき腹に鈍い痛みが走った。
緊張した時すぐに腹が痛くなるんだ。
大便がしたい。
だが、始業ベルは既に鳴っている。
どうしようと焦り始めた時、腕時計にふと目を落とした。
そうだ、これがあったんだ。