息抜き2
どのくらい俺は眠っていたのだろうか。
すっかり辺りは真っ暗な闇に閉ざされている。
俺は半身だけ起こすと、身を包む夜気の冷たさに身震いした。
何でこんなに寒いんだろう。
半そでにジーンズの姿では、風邪を引いてしまいそうだ。
しかし、家を携帯で創造するのも面倒だな。
衣服だけで事足りる。
「あったけー」
俺は黒いダウンジャケットを携帯でひねり出した。
思わずその着心地に歓喜の声が漏れる。
宵闇に浸っていると、少しずつ心が高揚してくるのを感じた。
「だー! 」
突然、俺は荒野を駆けてみた。
全力疾走だ。
足がもつれようとも、息が切れるまで走り続けてやる。
「ハァハァ……」
だが、俺は目標とした高い木に辿り着く前に力尽きた。
なんて体力がないんだろう。
俺は前傾姿勢で激しい息を整える。
そして、ゆっくり視界をあげていった。
と、そのときだった。
前方に何か黒い影が動くのを目で捉えたのは。
まだ設定も創造もしていないのになぜ生き物がいるんだ。
俺は呼吸を整えながら、黒い影のほうにゆっくり歩を進める。
少し離れた位置で立ち止まって、黒い影を透かし見た。
すると、相手も俺の姿に気づいたようでこちらに歩んでくる。
俺は身を硬くして、不測の事態に備える。
「拓様……お久しぶりです」
と、そのとき、闇夜の合間を縫って、朗々とした声が静寂を破った。
「え? なに? ま、まさか……」
お、俺はこの声の主を知っているぞ!
「ピ、ピエール? 」
「ええ……」
「何でお前がここにいるんだ? 」
「さぁ、気がつけば私はここで佇んでいました」
事態が飲み込めなかった。
なぜ、この仮想世界にピエールがいるのか。
ここはピエールの存在する世界とは別の次元にあるはずだった。
「拓様……ここは危険です、急いで立ち去りましょう、ついてきてください」
「え……? な、なに」
言いかけると、ピエールはいきなり俺の腕を掴んで走り出した。
「おい、待てよ」
「静かに……話は後です、振り向かないで全力で走ってください! 」