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掴めない女


 台所から出てきた真琴と幽霊には笑顔が浮かんでいた。

「拓、輝君、お待たせ」

「お、おう」

「ごめんな~、みなさん、さっきは申し訳なかった」

 幽霊は牧田茂と名乗った。

 さっきとはまるで雰囲気が違う。別人のような爽やかな顔つきだった。

「ここにきた霊媒師の女が失礼な奴だったからさ」

 それが真琴に対して異常な罵詈雑言に繋がったとこいつは言うのだが。

「真琴ちゃんは本当いい子や、本当ごめんな」

「あはは、まぁ、仕方ないですよ」

 口端にへらへらした笑みを湛えるこいつがどうも信用できない。

 真琴もあれだけ言われてよく打ち解けて話せるな。

 いや……眉間による皺や右手の握りこぶしをみるとまったく気は許していない。

「真琴ちょっと……」

「どうしたの兄貴? 」

 きょとんとした顔で輝は言った。

「まぁ、ちょっと話し合い」

 俺たちは幽霊と一定の距離を保ちひそひそ話をしようとしたところ、アパートの外で聞きなれたエンジン音が。

「所長迎えに来たわよ」

「よし、なら、話はそっちでしよう」



 腹と背中がくっつきかねない瀕死の午後、所長はかろうじて昼間の時間帯に帰ってきた。

 運転席に所長が座り、助手席に輝、後部座席に俺と真琴が陣取る。

「ほら、ハンバーガー買ってきたよ、ジュースもポテトもあるから好きに食べて」

「ありがとうございます! 」

 時刻は1時半、この差し入れがなかったら不機嫌な顔を隠しきれなかったかもしれない。

「兄貴うまいね! 」

 口に目一杯食べ物溜め込んで話す弟を見ていると、育ちの悪さが露呈しているようで恥ずかしい。

「所長、話はまとまりました。これから向かってほしい場所があります」

「そうか、進展があったのか」

「なんかあったの? 」

 俺は飲みかけのジュースを口から離すと、真琴に尋ねた。

 真琴はそれには答えず、済ました顔でハンバーガーを上品に食べている。

「なにがあったんだよ? 」

 わざと、不機嫌な声色で真琴を問い詰める。

 さっきの態度といい……収まりかけた俺の怒りの火種が腹の底で再びくすぶり始めていた。

 と、そのときだった。

 真琴が肩を震わせて、フフっと小さな笑い声を漏らしたのは。

「ち、ちょっとやめてよ! アハハ」

 彼女は体を小刻みに震わせながら前かがみになる。

 ど、どうしたんだ? 気でも触れたのか……?

 俺がその様子を訝しげに観察していると、

「アハハ、わかったわよ、ほら! 」

 真琴は急に体を反らせてシートまで戻すと、何を思ったか、食べかけのハンバーガーを座席の後方に投げた。

「きたねぇ……誰が掃除するんだよ」

 俺はすぐさま真琴の座席シートの背後を見た――が、真っ黒なボードには何も付着していない。

 座席の隙間にでも落ちたかと思い覗き込んだが、ハンバーガーの痕跡は見当たらなかった。

 俺が不審に思って、真琴に今何が起こったのか尋ねようとするとそれを遮るように、

「よし、食べたし、話すわね」

「お、おう」

「輝君も良く聞いてね」

「はーい」

 輝は助手席から身を乗り出して顔を接近させる。皆が円陣を組むかのように話を始めるが、所長は我関せずといった風に窓の向こうの景色を眺めながら、良く分からない鼻歌を奏でていた。


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