胎動。
闇を朱色に染める狂気の炎は、木々や草花を灰燼とすべく駆け巡る。
炎の勢いは止まりそうにない。
「派手にやってくれたもんだ」
セルッピオは赤々と夜の闇に照らし出された元棲家を、忌々しそうに目を細めて見上げる。
ここは山の裏側を降りてたどり着いた河川敷。
危急の事態に備えセルッピオが確保していた抜け道を辿って降りてきたのだ。
「あの化物はなんだったんだろう」
「しるか! 」
「大きな鳥のように見えましたが」
そう、鳥に見えた。
大きな金色に光る鳥だった。
その鳥がとがった嘴から、猛烈な炎を山に吹きかけたように見えた。
「拓様、えっと……」
「いや……何も言わなくていい」
ジルは無理に励まそうとするが、そんな彼女も痛々しい表情で俯いている。
棲家が焼かれて俺も彼女も虚脱していた。
戦で両親を殺され、焼け出された兄妹のようなもんだ。
惨め過ぎる。こんな時は――
「どうしよ、セルッピオ」
頼もしい大人に救いを求めたくなる。
「まぁ……どうにでもなる」
彼はそういったきり、俺たちに視線を滑らせた。
「なんとかなるさ……」
うわ言か独り言のように呟く声音に元気がない。
俺たちを憐れむようでもあり、どこか面倒くさいような、そんな複雑なニュアンスが混じっている声だ。彼は元々盗賊、一定の棲家をもたない根無し草。
そんな彼にとって、今回のようなことは些事なことだろう。
俺たちという付属物がなければ……
「お、俺にま、任せとけ」
たどたどしい口調で最後に彼は柄にもない言葉で締めくくった。
「ジルもついてくるか? 」
思い出したかのようにセルッピオはジルにも声をかけた。
「行っていいんですか」
「もちろんだ」
セルッピオの言葉は決然としていて迷いがない。
その言葉を聞いて、ジルは安堵したのかぱっと目を輝かせる。
「当たり前じゃないか、俺たち家族だぜ」
なんだか暖かい雰囲気に俺は便乗したくなり臭い台詞を付け足した。
他人なら尻蹴りまくりたくなるような寒い台詞だ。
月影に照らされて浮かぶ川面を見ながら、傍らの彼女の反応にじっと意識を傾ける。
川のせせらぎの合間に漂う気まずい沈黙に俺は外したかと考え出した時だった。
「あ、あのー」
俺の手にそっと絡み付いてきたのは――彼女の柔らかい手!
「どこいきましょう!」
振り向くと、彼女はいつもと変わらない笑顔を俺に向けていた。