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ペルソナ。

 ジルは詳しいことは話さなかった。

 ただ、俺やセルッピオに話したのは、自らが所属するクランへもう帰らない旨を魔法で連絡しておいたという一点のみだ。なんでそうなった? お前馬鹿じゃねーの? などと俺なんかは困惑して罵詈を浴びせたがそれほど長くは続けなかった。浚ったの俺だしな……

「ふーん、そうなのか」

 セルッピオは平然と聞いていた。

 俺が声を荒げてジルに詰問している最中でも黙っていた。

「はい、だからご迷惑おかけすることはないと思います」

 ジルの話では、サラダクランは去るものを追わない主義なので、

 この山にジルを取り戻しにぞろぞろやってくることはないとのこと。

「じゃ、何にも問題ないな……」

「そうなんですかね」

「あぁ、大丈夫だろ」

 切り立った崖の中腹にある岩窟での話し合いは一旦幕を閉じる。

「じゃ帰ります」

「まて、拓、久しぶりなんだから今日はここで食事でもしていかないか?

 ジルとも俺は初対面だし、3人で楽しく夕食会としゃれこもうじゃないか」

「いいですけど、ジルはどうする? 」

「ごちそうになります」

「よし、決まりだ、じゃ俺は食事の用意するから、お前等は適当にくつろいでいてくれ」

 そういい残して、セルッピオは岩窟の奥へと姿を消した。

 夕日が木々の葉から幾筋か差し込んできてはいるが、電灯のない岩窟は既に薄暗い。

 淡い闇が辺りに散在する岩や草木の輪郭をぼかしている。


「お二人はなんでこんなっていったら失礼ですが、あの、その……」

 飯を食い終わって、一息ついているとジルが口を切った。

 頃合を見計らってたらしい。

「はっきり言っていいよ。何でこんな山奥で仙人みたいに暮らしてるかって……聞きたいんだろ」

 セルッピオは髪を上に撫で付けながら彼女に向き直った。

 彼の長い銀色の髪がどこかから差し込む月の光に照らされ白く光って見える。

 長い髪が前に垂れてはいるが、その髪の間から覗く彼の目は恐ろしく鋭い。

「は、はい……」

 ジルはいつになく緊張した様子で首を縦に振った。

「よろしければお聞かせください」

 岩窟の奥に陣取る彼女の姿は闇の中でも白く浮き立って見える。松明も月明かりもないというのに、彼女の所作は岩窟の入り口付近にいる俺にも確認できる。

「簡単な話だ。俺はエストのある村で生まれた。その赤ん坊の俺はなぜかこの山に住む仙人風の男に預けられた。つまり俺は両親に棄てられてこの山で生まれ育った、そういうことだ」

 セルッピオさんに最初に出会ってそのことは聞いていた。

 なぜ棄てられたのか聞いても本人は知らないらしい。

 ただ、その育ての親である彼の義父はもうこの世にはいないそうだ。

「なるほど……大変な人生を……」

「おっと、変な同情はいらんよ、俺はこの山が気に入っている。そしてここが俺の故郷だ。本当の両親がどんな奴か知らないが、俺は何にも恨んでいないし興味もない」

「そうですか……」

「それより、拓はどうなんだ」

 いきなりセルッピオが話題を振ってきた。

「なんでこの山にやってきた? 」

「俺は……」

 何でだっけ?

 自分自身でもあまり把握していなかった。

 ジルに出会ったばかりのとき、何度か聞かれたが分からないの一点張りで押し通した。

 実際分からないんだ。

 俺は全てのしがらみが嫌になって、この山へ逃げ込んだ。

 ただ、それだけなんだ。

 他にいけたかもしれないが、なぜかこの山へ分け入ってしまった。

 単なる成り行きとしか言えない。

「分からない……俺はここへくるまえから、なすべきことも拠り所にするものも目的もなかった」

「そういえばお前言ってたな、なぜこの世界を作ったのかって」

「そ、そんなこと言ったっけ……」

 俺は焦った。確かにこの世界は俺が創造した世界だ。

 だが、それは飽くまで俺の心のうちにしまっておくべきシークレットだ。

 心が荒み自暴自棄になってたときに、彼に出会い詰まらない事口走ってしまったのか。

 とにかくごまかさないと。

「作るって……」

「つ、作るっていうのはだな、も、目的がなくてもぶらぶらしてたので、俺もなんか目的がほしいなってことさ」

「なるほど……」

 ジルは気の抜けた声で同調したように見えるが、得心は言っていないだろう。

 セルッピオは暗闇で鼻を鳴らした。

 ふふんと何か人をからかうような気配を闇に漂わせている。

「お前に目的を把握してなかろうと、既にお前がやることは決まっているとおもうぞ」

 セルッピオは俺が腰に締めている帯を指差した。

「その帯にはさまれている仮面は、確実にお前を目的の地へ誘うだろうよ」


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