変化
「セルッピオさん、お久しぶりです」
「お、拓か、最近どうだ? 」
セルッピオとは俺がこの山にやってきたとき知り合った。
彼は細面で形の鼻梁が顔の真ん中に通った優男風の男だ。
「やっぱ山はいいですよ、人もそうこないし落ち着きます」
「そうかそうか」
数ヶ月前、俺は何もかもに嫌気がさしてこの山にやってきた。
そして、しばらくこの山で暮らしていたが、何せ村や町とは違って、
食料が転がっているわけでもない。
そんな時彼に出会ったのだ。
俺は現実世界ではただの高校生だ。
神がかった力を持っていても、それをいかしてどうやって食料を調達するか
分かる由はなかった。
だが、彼とであってその調達方法を学ぶことができた。
山野には鹿や兎があちこちにいる。
その野生の動物の狩猟方法から、獲物の調理の仕方を教えてもらった。
しかし、彼から学んだのはそれだけじゃない。
「最近派手にやってるそうじゃないか」
「知ってましたか」
「だがあんまりやりすぎるな、強奪なんてのは目立ちすぎる、出る杭はいつか打たれるもんだ、賢い人間は目立つようなことはしない。やっぱ、こことこれよ」
彼は指先で頭をさしながら、もう片方の手を宙に上げてハーブをかき鳴らすように虚空で指を動かした。
そう、彼は限りなくグレイな生き方をしている人種だ。
なにせ彼の生業の半分はスリでまかなっているのだから。
俺はこの人から生きるためには、時には――と、彼の持論を聞かされ、
その意見にある程度同調することにより彼の裏の部分も吸収し変わっていったのだ。
だだ、彼の名誉のため付け加えるなら、彼は飽くまでグレイであって真っ黒ではない。
普段は山に生えるつる草を編んで手提げ籠を作り、下山して行商にいく商人でもある。
「そこの奴出てこいよ」
俺と彼が談笑していると、ふと彼は俺から意識をそらし、離れた場所にある大岩に向かって声をかけた。
忘れてた……
「ジルよ、おいで」
「は、はい……」
ジルは顔を幾分強張らせて岩陰から姿を現した。
「これ俺が拾った女です」
「あ、どうも、拓様に拾われたジルといいます」
「拾った? 浚ったの間違いじゃねーのか、ハハハ」
彼は端正な顔立ちではあるが、笑うときは大口を空けて笑う。
この辺は育った環境が出ているといって良い。
ジルは完全に萎縮してしまっている。
俺とこの山で住むことになってから十と四日が経つが、
彼女もまた俺と同じくここへ来て何かが変容していた。