懐かしくなった。
瞬間移動を使って、家のすぐ前の道路に出た。
深夜の車道は静まり返っている。
とはいえ、道沿いに電灯が等間隔にあるため、
真っ暗ではない。
車道沿いの歩道を東に向かって真直ぐ歩く。
人いないなぁ。
と、思ったら曲がり角から急に人影が。
カップルらしき二人と擦れ違う。
夫婦かもしれない。
どうでもいいけど。
カップルが曲がってきた方向とは逆、つまり交差点を左に曲がって北へ上がっていく。
この道は家の手前の道路より、広く少し傾斜がある。
先には広い車道があり、そこを渡れば神社があった。
大きすぎず、狭すぎず、幼い頃よく近所の友達と遊んだ場所だ。
神社に行くために俺は信号待ちをしていた。
俺は少し怯えていた。
神社の手前には派出所があるからだ。
深夜に高校生である俺が出歩いてるのを見つけて、
補導ででもされないかと心配だった。
だが、それは杞憂に終った。
交番には明かりは点いているが、人がいないようだ。
もしくは奥にいるのかもしれない。
そのうち信号が青に変わる。
石段を上って神社の境内に足を踏み入れた。
~~~
それにしても単調だ。
これではただの散歩に過ぎない。
境内は電灯が奥にしかなく、今いる場所は薄暗い。
しかし、道路の明かりが届くので、やはり真っ暗ってほどではない。
大きな御神木? ってほどではないが、太い幹の木がある。
その木の暗がりで足を止めて一息ついた。
夜風にさやぐ木の葉の音が聞こえる。
境内は寂として薄闇に沈んでいた。
妖怪でも出そうな雰囲気――には程遠いが。
山奥にある神社ではないからだ。
時々、入って来た方から、バイクの甲高いエンジン音が聞こえてくるし。
所詮は住宅街の一角を占める神社に過ぎない。
あーあ、詰まんないな。現実世界って。
携帯でも使わないと、何にも目新しい事なんて起きようがない。
まぁ、元々ここは俺が作った仮想世界。
俺が色づけしないと、何も始らないわけだが。
神社は詰まらないな。
俺は目を閉じて、次の行き先を頭でイメージする。
そして、その場所に移動する意志を脳に伝える。
瞬間――俺をとりまく風景が変わっていた。
ここは高校に上がる前に通っていた中学校だ。
その手前の坂道に俺は立っていた。
坂道を上がりきり、閉じられた門の向こうに映る学校を眺める。
変わっていないな。
二年くらいじゃなぁ。
学校の奥の方へ視線を投じる。
確かあのへんが……
俺はここで3年の時に過ごした教室を今でも覚えていた。
まだあるに違いない。
そうだ、あの教室に瞬間移動してみよう。
うまく行った。
イメージが少しだけ薄らぎかけていたんで心配だったが、
部屋の中へ無事やってきた。
教室だ。
真っ暗かと思ったが、月明かりが差し込んでいるのか、
青白い光が薄く教室を照らしていた。
ここで一年、勉学に勤しんだんだよな。
一昨年の話か。
黒板がある。
前には教卓があり、向かいに机が整然と並んでいる。
教卓から見て窓際から2番目の列の一番後ろから2つ目の机が俺の席だった。
懐かしい。
俺はその机まで歩いて、表面を手で撫でる。
そして、すぐ右側の席を見る。
ここに俺の好きな女の子が座っていたんだ。
――――ってなに郷愁に浸っているんだ、俺。