怨霊召還。
俺は夜も深い静まり返った住宅街を歩いていた。
特に行くあてはない。
ただ、深夜に外出すると血が騒ぐのだ。
その昂揚感たるや、狼男が満月の夜に変身するときの高ぶりと似ている――かもしれない。
手がかじかむような夜気が体に纏いつく。
俺は肌寒さに体を竦めて、左右をきょろきょろしながら歩を進めていた。
青白い闇に沈む家々が通りの両側に林立している。
この辺りは住宅街といっても、郊外の高台にあり市の中心地より離れていた。
深夜2時の通りは当たり前のように人影はなく静まり返っている。
またしても俺は携帯の力を頼ることにした。
瞬間移動の力だ。
頭に思い浮かべる事で、一度行った事のある場所へ移動できる超能力。
仮想世界の日本でまで、律儀に歩く必要はない。
ここでは俺は神様なのだ。
神様といえば、古来より人知を超える力を行使できる者と相場は決まっている。
だから、俺はこの街でその力を存分に奮うつもりだ。
そうでなくては、仮想世界を作った意味がないのだ。
さぁ、派手にやるぞ。
まずは一人は嫌だ。
話し相手が必要だ。
「凶悪な怨霊だが、俺とは主従関係にある、人には見えない」
これを携帯のディスプレイに文字うちしてOKを押す。
今打ったものがこの世界に反映された。
と、同時に己の軽薄さを悔いる。
夜の基地外じみたテンションの高さに任せて、えらいものを……呼んでしまった。
『い、いるの? 』
『はい、ご主人様、あなたの背後に憑いています』
彼とは心の声で話す事ができた。
既に背後霊と化しているらしい。
特に肩が重いとか、背筋が寒いといった感覚はない。
『よ、よし』
俺は不思議と怖いという思いはなかった。
相手の声が妙に澄んでいて、想像とは違っていたからだ。
まぁ、設定反映の正確さを信じているせいもある。
もうこの携帯とも長い付き合いだ。
さぁて何しようか。
取り合えず、彼と会話かな。
『お前さ、特技ある? 』
『特技ですか、そうですね、憑依にかんしてはエキスパートだと自負しています』
誰かに取り憑いて、好き勝手に他人の体をもてあそぶって事だよな。
俺は短く刈った髪を左手で弄りながら、辺りを見回した。