第八話 力の使い方
アエシマの掌から黒い光線が解き放たれる。
直観的に躱し、ターゲットから目を離さずに警戒する。
しかし、魔人はすかさずに次の一手を発動していた。同じ手の光線攻撃は直線的に描くと思いきや、分裂した。
上下左右、斜めからも同時に放つ事で逃げ道を塞ぎ、確実に仕留める手段を選んできた。後方に下がる事で回避は成功したものの、黒い光線は相殺となり、爆発が起きた。
視界も遮る事が目的か……!
そう思ったが、既にアエシマはすぐ傍まで近付いていた。
頭に何かがぶつかる痛みが生じる。蹴りの一撃によるダメージで、オレは壁まで吹っ飛ばされる。
うまく攻撃で妨害して追撃をしてきやがる。
奴の魔法はそれだけで終わらないのは確実にわかる。
体術と剣術だけで魔人を倒すまでの勝ち筋が見えてこねぇ。
「お前、さっきから臭うな」
「なにが?」
「魔女だよ。俺の一族を抹殺したのとは違う臭いだが、関係ねぇな。いずれか全員に復讐すると決めていた事だ。今日は運が良い。これで一歩、前に進む事ができるんだからな!!」
アエシマは手で頭を掴もうと伸ばしてきた。一瞬の隙を作ったつもりだろうが、何かをするのは見えていた。上半身だけを捻り、拳で軌道を逸らす。
横を通り過ぎる魔人の腹部へ逆の拳を放つ。
だが、それほどのダメ―ジを負ったとは思えない程の余裕を彼は見せている。物理攻撃はそれほど効かないのか、それとも他に仕組みがあるのか? あの変態の周囲にある黒い靄は、黒龍と共通しているのだろうか? 目に映る時と映らない時があるのは、相手側が魔法を使うか否かなのは分かっている。
つまりは魔力による身体強化。あのスキルでオレの打撃の耐性を作っているようだ。
(――――いな)
「っ!?」
突如と頭の中で響く声。
これは…………ネヴィラではない?
知っているようで知らないような声だが、オレには聞き慣れているものだった。しかし、彼女はとっくに亡くなっている。これはオレの体に残っている意思……?
(まだ弱いな。本当の力の使い方をわかっちゃいねぇ)
魔人は怪訝そうな顔をしている。
オレの中でしか聞こえていない声は続ける。
(あたしに代わりな。使い方を教えてやるよ)
瞬間、オレは不思議な世界へに入っていった。
まるで別の角度から自身を見ているような感覚。幽体離脱というべきか。初めての出来事でこれが合っているのかは不明だが、見方はそのようなものだ。
「何をブツブツと言っている? これ以上長引くのもムカつくな。とっとと終わらせてやる!」
黒い光線。
放つ前にアエシマの顔に拳が入る。壁も突き破り、吹っ飛んでいった。
自分が戦うよりも威力がある。
感情に任せている時や最高の威力を放てる時よりも強く、相手の発動よりも速く反撃している。無駄がない動きに自身だったらどう再現できるかを考える。
「考えるのは無駄。そもそも『鬼神』も使いこなせていないんじゃあ追いつけねぇよ。何が原因かは知らんが、封じられているようだからな」
『鬼神』が使えない……?
ゲームで初期ステータスに戻っているように、オレもクレナイさんのようには使えていないスキルがあるという事か。
複数の光線が襲い掛かってくる。
最小限の動きで躱し、奴の次の行動に備えている。
「あーいってぇ……装甲が壊される程の強さがあるのか貴様」
「殴り足りないなら別に構わねぇよ。こっちは妹が痛い目に遭ってムカついてるんだ」
一言でいえば、クレナイさんの圧倒だった。
目に捉える事も攻撃が当たる事もできず、一方的にボコボコにやられている魔人。
自分よりも強く、使いこなせている彼女をかっこよく見とれてしまっていた。
しかし、彼女はそう長くない。
『鬼神』を使えば、自分が表に出れば、彼女の遺志が減っていくのが分かる。短時間だけの勉強で技術を奪わなければ勝てない。
「そろそろいいか?」
大丈夫。オレがアエシマを倒す。
クレナイさんは少しだけ笑ったように見えたがはっきりとは分からず、煙のように消えていった。
上空からのパンチで地面に叩き付けられる魔人。ダメージは入っている。
それでも奴は起き上がってくる。着地前に魔法で攻撃するつもりだ。避けようがない。
ネヴィラが光魔法で球体を作り、それを蹴ってアエシマに当てた。
腹部に直撃し、壁を突き破って飛ばされた魔人は即座に戻ってきた。
「あーくそくそくそくそくそくそ魔女がああああああああああああ!! てめぇらはいつもいつもいつも邪魔ばっかりしやがってよぉおおおおお!! まずはてめぇから八つ裂きにしてやるよぉ!!」
オレを完全に無視し、感情的になって魔女へ向かう。
右腕から光線を刃に形成した武器で斬ろうとしている。魔力が無いに等しいネヴィラに対抗する手段は、闇魔法か光魔法を無理に使うしかない。
そして、オレは投擲の選択を選ぶ。
魔人が、魔女が、目に映る全てがゆっくりと流れているような感覚の中で考えた末の結論。手よりも大きな石を拾い、投げ出す。
ネヴィラがこちらの意図を汲み取り、闇魔法による拘束をしてくれた。
思い通りにならずに激昂するアエシマは、強引に闇魔法を解こうとしている。だが、石ころが命中するまでの時間を稼いでくれた。
ここでネヴィラの闇魔法が消える。魔力が尽きたようだ。後はオレがこいつをぶっ飛ばせば勝利。彼女が作った隙を無駄にはしない。
再び右腕で刀身を形成し、オレに刃を向けた。
しかし、時は遅かった。振り被るよりも早く拳が当たる。
全力を込めての殴りは、魔人を外まで吹き飛ばした。先ほどよりも威力が倍になっているそのパンチには自分でも驚きを隠せなかった。
「や……やった?」
「ぜぇ……ぜぇ……多分な」
外を見てもアエシマの姿は見えなかった。
相当飛ばされたようで、折れた木が転がっているのは確認できる。
「魔力は感じられない……また戻ってきたら勝機はないから、この間にもツバキさんを助けよ!」
「あぁ……」
無理をしたのか、身体が痛くなってきた。筋肉痛のような痛みと異常な熱さに今になって強めに出て来たようだ。
「大丈夫!?」
「なんとかな……それよりもツバキさんを助けて戻ろう。ネヴィラも魔力がないだろ。後はオレが何とかするよ」
「…………あまり無茶しないでね」
本音を言いたそうな顔をしている。
それでも堪えてオレに任せてくれるようだ。
それに笑顔で返す。
「あぁ、ありがと」
しかし、奴は生きていた。
床のコツ、という音でやっと気付く距離まで魔人は近付いていたのだ。万全であれば、攻撃を喰らっていた所だろう。
アエシマとて、大きいダメージを負っているのだ。脇腹を抑え、今にでも倒れそうな程にフラフラな状態だった。
突如と口を開き、笑いだす。
「ふ……ハハハハハ!! その男気、気に入ったぞ! どうだ!? 王となる俺様と共に魔族を築いていかないか! 貴様程の実力ならば、魔族の頂点どころか世界の頂点も取れるだろう!」
アエシマの言葉に耳を貸さず、足で顔面を一発入れる。
「うるせーよ変態野郎」
まだ動かないか数秒だけ待つ。
『鬼神』のスキルが継続可能なのか、気力だけで足を立っている状態では魔人に勝機はない。こいつからの吸収も僅かにできていたが、次第に何も来なくなったのが目視した。
ここから立ち去る時間は確保できたか。さっさとツバキさんを解放して帰ろう。ネヴィラの魔力も尽きている今で戦闘は危険だ。
鎖付きの鍵が掛かっている門を強引にこじ開けて中を見る。電気が付いていない真暗な部屋。古びたベットにテーブルと椅子が最初に目に映るが、探している鬼人の姿が見当たらない。
「だ……誰ですか?」
部屋の奥から声が聞こえた。弱々しい印象を受ける女の人のだ。
暗闇をよく目を凝らしてみると彼女がいた。背中に両腕を回していて、足に枷が付いている。自力では動けないように手足に付けているようだ。汚れと怪我は見受けられないが、酷い事をされていないかは聞かないとわからない。
「ツバキさん、ですよね? オレはメイといいます。ラセツさんから依頼を受けて助けてにきました。今、枷を外しますので動かないでください」
力を入れただけでまるで玩具のように壊れる。彼女に被害が行かないように気を遣いつつ、足のも破壊する。
「ありがとうございます……」
「何処か怪我してませんか?」
「特に暴行等は受けていませんので自分で立てます」
「うーん、でも万が一もあるので背中に乗ってください。怖い目にあって震えているのではないですか?」
「えっ! で、でも、私よりもメイ様の方が怪我が酷いではありませんか?」
言われてみればそうだ……。
「まあ満足に動けるから大丈夫! さ、乗って乗って」
「……ありがとうございます」
背中に柔らかいものが当たっても、痛みでそれどころではない、のだが、意識はしてしまう。
「しっかり掴まっててくださいね」
「はい」
ここから鬼人族の集落までは遠い。モンスターもいるので油断はできない。
早急にここを駆け抜けていけば、遭遇しても逃げられる。そうしよう。
「早めに走るので注意してください」
ツバキさんは口を開かずに、オレの言う事を従ってくれた。
警戒されている? と思ったが、気にしないでそのまま向かう事にした。
「……少し昔の話をしてもいいですか?」
「どうぞ」
「昔、お姉ちゃんがいたんです。男勝りで元気な姉と体が弱い妹。真逆の存在でしたが、一緒に遊んでくれました。弱い私に気を遣って、体調に合わせて近所の子と遊んでくれました」
「…………」
ツバキさんの言葉に耳を傾けながら駆け抜けていく。
その姉が誰かを知っておきながらも、オレは黙って聞く。
「しかしある日、魔女が姉を連れていきました。私はショックで寂しかったのですが……鬼人族を守るという使命に全うしたつもりです。姉のようにはいかなくても、私には知恵と魔法、そして鬼人族の皆様のおかげで生きてこれたと思います。お姉ちゃんが……どこで何をしてるかを心配しつつですが……」
言葉に出さなくても恐らくは彼女も感じ取っているだろう。クレナイさんの生き様を。ラセツさんと同じように、オレに触れた事で把握してしまっている。
「彼女には恩があるんです。意志も決して無駄にはしません。オレがいるのは、その為でもあるんですから」
「…………ありがとうございます。お姉ちゃんも喜んでいますよ」
「はい……」
ツバキさんが泣く声が聞こえても、オレは森を走り抜けていった。
ここにいる意味も改めて理解しながら進み続ける。




