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オレだけ転生。魔女と共に異世界へ  作者: 鳴壱
序章 新たな人生

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第五話 準備

 ソル王国より北東側にある山奥に小さな教会があった。

 過去に孤児を保護する団体に使われていた建物であったが、魔神教の襲撃や事件によって孤児の安全が保障できなくなり、使われなくなって十年は経つ。

 子ども達は現在、第一次人魔世界大戦の英雄が建国した『エルドラード大国』に保護されている。

 その教会にはある者達が住んでいる。かつては利用していた者と仲間が数人。世間から離れ、ひっそりと過ごしていた。

 玄関の扉が開かれ、外からフードを被った者が現れる。


「よぉ」


 フードを外すと、三つ編みの赤髪に赤目、白色の修道服を着ている少女だった。目付きは鋭く、今にでも手を上げるのではないかと思える程の視線はその先へ向けていた。


「おかえりなさい。ベルナさん」


 そう返すのは紫色のショートボブに赤色の瞳を持つ女の子。ベットの横にある椅子に座っており、彼女の兄を看病していた。頭だけをシスターへ向け、笑顔で向かい入れている。


「始めたんだな」


「えぇ。暫くはこの状態が続くようです。実験の方は如何でしたか?」


「あー失敗だ。少し魔力を入れただけで暴走か破裂。器が持たないんじゃ全く意味がねぇな。竜の奴もどこのどいつかに倒されてしまったぜ」


「暴走の挙句に討伐ですか……魔人辺りを狙ってみては? 多少は人よりも耐性はありますでしょうに」


「さらに竜で実験すれば、アレが黙ってねぇだろうしな。クソ、飛行もあるから便利だと思ったんだがな。次はそうしてみるか。それで、おっさんはどうした?」


「……気絶してますよ」


「ふーん」


 そう言い、彼女から見れば左側にある壁へ視線を移す。

 蝋燭の火が灯っている壁には男がいた。縄で柱に両手両足を縛り、動けなくしている。頭部がぐったりと下に垂れているようだが、意識を失っているだけなのが彼女にはわかった。

 バケツにあった水を彼に掛け、強制的に目覚めさせる。

 急な出来事に男は動揺したが、やがてベルナ達へ顔を上げた。


「ま、まだ……解放してくれないのか?」


「まだ役目はあるんだ。あたしの大事な実験に、な」


「実験……? な、なぁ、スルウ! シオン! 昔の事をまだ恨んでいるのか? 唆したのは確かに俺だが、あいつらは既に償っただろ! 罪滅ぼしがまだ足りないのか? なら、俺が安定した生活を送らせてやるから、頼むからころ」


 耳を塞ぐ少女を見て、ベルナは男の首に触れ爆破させる。


「聞きたくねぇってよ。残念だったな。償える方法は死だけらしい」


 声を出す機能が無くなり、神父は薄ら笑いするシスターを見て恐怖を覚える。この先の自分がどう足掻いても同じ結末だと知ったからだ。


「シオン、こいつを使っていいか?」


「…………ご自由に」


「そっ、次の目的に使わせてもらうぜ。ほら運べ」


 真っ黒な手が男を引き摺る。

 影へ飲み込まれ、姿が消えた。


「もう出るが、お前も程々に休んでおけよ。来たる日に向けて、な」


「……ありがとうございます。ベルナさんもお気を付けて」


「おうよ」


 シスター服の少女は外に出て、残された二人。

 シオンは兄の手を握り、静かに安静を願う。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 窓から寝室に日差しが入ってくる時間帯、オレは目を覚ました。

 久し振りに熟睡できたようだ。野宿とは違って、襲われる危険もないのは助かる。


「おはようございまーす。シルフィーですー入りますよー」


 タイミングを計ったかのようにドアにノックするメイド。

 まるでテレパシーだな……。


「どうぞー」


 オレの返答に反応し、彼女は入ってきた。

 笑顔で向かい入れてくれるシルフィーは眩しく見えた。


「メイ様、髪を梳かしたいのでお顔を洗いに行きましょう」


 そうだった。いつもなら水で寝癖を直すようにはしてるんだったな。

 今日はお任せにして貰おうか。


「うん、わかった」


 洗面台がある場所で顔を洗い、眠気を取り除く。

 何度か繰り返すうちに、多少は現実に戻ってきたのでタオルで水分を拭き取り、シルフィーがいる椅子に足を運ぶ。


「じゃあ、梳かしていきますね」


「お願いします」


 そっとやり始める。

 痛くないように気遣いながら、手慣れた手つきで進めていく少女。

 頭がまだ回らない状態でも本日のする事を決めていく。

 冒険に相応しい服装にこれからのルート。それに同級生の行方を調べる。何処にどういう国があるのかとかも調べないとな。山積みの問題に悩ましい所ではあるが、焦らずに一つ一つと解消していこう。


「本日は服装の買い物に行かれるんですよね」


「うん」


「シルフィーも同伴してよろしいでしょうか? 初めてソル王国に来られたと聞いたので」


「案内してくれるのか? 助かるよ」


「いえ、何かお力になれるとしたらこのぐらいしかできませんから。楽しみです。あ、終わりましたよー」


 シルフィーは離れ、自分は御礼を言って着替える。


「あーそういえば、食事ってあるんだっけ?」


「勿論です。国王陛下とカミラ王子様の方々がお待ちしております」


 食事しなくても大丈夫な肉体だから必要かなぁ?

 まぁ、あちらさんなりの御礼もあるからお断りすると余計に面倒くさい事になりそうな予感がある。


「そっか、じゃあ案内頼むよ」


「承知致しました。私の後について来て下さいね」


 廊下に出て、シルフィーが閉めた後に急ぎオレの前を歩く。

 小さな背中なりに頑張っている彼女が頼もしく思える。


『ふぁ……おはようメイ』


(お、今起きたんだなネヴィラ。体調はどうだ?)


『そこそこ良いね。魔力持ちの人が多いからか、回復が早いよ』


(そっか。あ、これからカミラ達と食事だってさ)


『んー……分かったぁ。昨日も言ったけど、スルウ達の事はまだ口外にしないでね』


 欠伸をしてる所を見ると、まだ疲労もあるのか。

 回復に専念してるとはいえ、時間が掛かるものだな。


(オッケー。もうすぐ着くから一度切るよ)


『はーい』


「こちらが食堂になります」


 シルフィーが扉を開き、中の様子が見られるようになった。

 奥側に国王が座り、両脇には見た目からして王妃とカミラ王子が座っている。彼等を囲むように騎士達が立っており、緊急時にも備えているようだ。

 その手前の椅子に食事が置いてある。パンや目玉焼き、ソーセージとスープが並んでいる。空いているスペースがオレの場所らしい。


「おお、お待ちしていましたぞ。ささ、そちらの椅子にお座り下さい」


 オレの存在に気付くなり、彼等は挨拶をしてきた。それに返している途中がシルフィーが椅子を引き、座りやすく動かしてくれた。


「皆さん、おはようございます。温かく朝までゆっくり眠れました」


「そうかそうか。それは良かった」


 いただきますと手を合わせ、パンを口に運ぶ。

 中々風味があるおいしさがある。


「そうだ。最近になって人が増えたとか情報あります? 例えば転移者とか」


「確か、カナイ王国で転移の儀式が行われたという情報ありましたよね」


 カミラが答える。

 お、ビンゴか?


「転移者が増えて大変な事になると冒険者から聞いたので気になりまして。それがいつ頃とか分かりますか?」


「先週でしたよね?」


「情報屋によればそうらしいな。王が何の目的で召喚したのかは不明だが、既に冒険には出たと聞いておるな」


 やっぱりあいつらの事だ。

 情報を手に入れたからラッキーだぜ。


「そうでしたか。周囲に注意して警戒しないといけませんね」


「そうですね。メイさんはこれからどうなさるのですか?」


「……もう旅に立とうと思ってます。全てお世話になっておいてですが、目的があるので」


「まぁ、無理に縛りはせぬよ。メイ殿の邪魔をするのはとんでもない事ですし、困った事があれば我々に頼って下さっても構いませんよ。我が国の英雄ですからね」


 そう言いながら笑う国王。

 上機嫌なのは伝わってくる。


「ありがとうございます」


 食事を終え、食堂を後にする。

 廊下に出てからシルフィーが買い物のついでに準備もするので城門の前で待っている。


『メイ』


(どうした?)


『魔女が近くにいる』


(……それってベルナって奴か?)


『微かに感じ取れる程度で、正確な位置は分からない。うまく隠れているようだね。もしかしたら、私達の存在に気付いているかもしれないから気を付けて』


(オッケー)


 城門には近付かない人混みだが、あの中から一人を見つけるのは難しいだろう。顔もわからないオレが本来の姿も知らない訳なので、難易度は更に上がる。

 こちらが探っているのをバレたらアウトだ。なるべく、自然を装ってシルフィーが来るのを待っている体でいこう。


「お待たせしましたぁ!」


「お、おぉ、シルフィー……そんな急いできたのか?」


「準備に手間が掛かってしまったので……」


 出発前に既に息を切らしてしまっているメイド。

 思わず、剣を鞘から抜こうと柄を握ってしまったのを離す。


「少し休んでから行こう」


「いえ、すぐに出発を」


「休め」


 そう言うと顔を下に向けて落ち込む少女。

 諦めが付いたのか、何も言わずに大人しくしている。

 深呼吸をし、メイドは前を向く。


「落ち着きました。行きましょう!」


 何度か汗も拭いたり水を飲んだりし、やっと動けるようになったようで安心した。

 彼女の後を歩くように人混みの中へ入っていく。徒歩から数十分が過ぎた頃、服屋に辿り着いたオレ達は店に入り、自分が気に入る服を選ぶ。資金はカミラ達が持ってくれるようで、気兼ねなく購入できる。

 選んだのはマントや露出が少なく、動きやすい服装だ。これで冒険者らしくなってきたので勝手にテンションが上がってる。

 その後は食材を購入し、荷物持ち代わりになり、店の外でシルフィーが戻ってくるのを待っていた。


 どんだけ買うんだ。この量を一人で持っていくのは辛すぎるんじゃないかなぁ。怪力のおかげで重さは気にしないものの、両手だけじゃ足りない買い物を毎日続けているのは辛いな。


「こんにちは」


 オレに話を掛けて来たのは少女だった。赤髪に赤い瞳の女の子はオレには知らぬ人だ。

 自分に挨拶してきたのか? それとも他の人に言ったのかと周りを見てもオレしかいない。


「こんにちは」


 警戒しながら返答した。


「お隣いいかな?」


 空いてるスペースがある長椅子に座ろうとしている。

 魔力があるようには見えないし、普通の子どもにも見える。


「どうぞ」


「ありがとう。いやぁ、平和が戻ってきていいですね」


「そうだな」


「黒竜を倒したの貴女でしょ。見てましたよ。あの実力がない中で貴女だけが異常に強いって。魔力もないのに、どうやって倒したんでしょ」


「……お前、何が言いたいんだ?」


 オレの問いには答えず、嘲笑い出す少女。周囲には聞こえないように静かに笑っている。


「なぁんだ。てめぇなんだな。実験体を潰したのは」


 彼女から突如と溢れ出す魔力が悪寒を走らす。

 ただ、その瞬間に理解した。戦っても負けると。


『メイ! その人が……!』


「いいのか? ここでおっぱじめたら、知らねぇ奴等も死ぬぞ?」


 本能がこの敵を排除しろと命令している。

 しかし、分かっていた。ネヴィラの実力から見ても、オレもソル王国も只では済まされないと。関係ない人々までも巻き込んでしまうのは、オレの本意ではない。


「…………なるほどな。お前がベルナか。何が目的だ?」


 魔女の特有の魔力。通常よりも漆黒で、魔力量が半端なくある。

 ネヴィラも全快ではないものの、この子に負けない実力はあるだろう。


「ネヴィラから聞いたんだな。まぁ落ち着けよ。話し合いしようぜ。英雄様よ」


「……戦いしないならそれでいい。それで、話し合いってなんだよ」


「あぁ、今後は邪魔しないで欲しいんだよ。あたし等にも目的はあるんだ。てめぇのような正義面して戦うのも良い事はねぇんだから」


「なんだと?」


「あのバカ兄妹からどうやって生き残ったかは知らねぇが、てめぇ等は邪魔なんだよ。バカ兄妹の為にも大人しく無害に生きてて欲しいんだ」


「ネヴィラから話は聞いてる。周囲を巻き込まないというなら手は引く。でも、その保証もないだろ。お前の目的は知らないけど、これ以上は犠牲者を出すのを止めろ」


「ハハハッ、無理って話だ。今はバカ兄妹に応じてあたしも黙っているが、時が来れば動くぞ。そういえば、最近では転移者が召喚されたようだったなぁ。あいつ等を誑かせば良い戦力にはなりそうだな」


 頭の中で何かが切れる音がした。


「おい、あいつ等に手を出せばどうなるのか、分かってて言ってるのか?」


「そんな熱くなるなよ。あたしが言いたいのは、そういう運命になる事もあるって話さ。そっちの世界よりも理不尽が多い世界だ。どうなるかなんて、あたしだけが外道っていう訳じゃねぇんだ」


「…………お前は何に憎んでいるんだ?」


 ベルナの動きが止まった。

 さっきまでよりも殺意が大きく、今にでも戦闘が起きそうだ。


「恵まれたてめぇには分からねぇよ。力があってもなくても変わらねぇものがな。それじゃ、そろそろ帰るかね」


「二度とソル王国にも近付くなよ」


「無理だな」


 そう言い、人混みの中へ消えていった魔女。

 ベルナがいなくなった事で体の緊張が緩くなる。


 あれが魔女だって?

 とんでもなく化物じゃないか。

 今のオレでは手も足も出ず、殺されるのがオチだ。

 ネヴィラからも察していたこの実力差。兄妹とはどれだけ差が開いているんだ?

 世界は広い。井の中の蛙大海を知らずだ。黒竜を倒し、人々から称賛されて浮いていたかもしれない。

もっともっと力を付けていかないと救えない。

 ベルナの目的は脅しだろうが、それでも止める訳にはいかないのだ。約束を果たすその時まで死ぬ訳にはいかないのだから。


「お待たせしましたーあれ? どうしたのですか?」


 シルフィーの声が聞こえ、顔をあげる。

 汗を掻き、何やら尋常じゃない事を察したようだった。


「いや、何でもないよ。帰ろうか」


 荷物を持ち、彼女を先頭にして歩く。

 まだ魔女が何処かで見ているような気がしつつも、城へと戻っていった。

 城内に戻った後、オレはネヴィラに警戒をお願いをした。

 国中が見える見通しが良い、城の更なる上にいる。一般人であるオレが通れる場所。

 『十人の魔女』のひとり、ベルナ・クスブルク。今思い出しても恐怖が出てくる。この世全てが邪魔で、他者がどうなろうと関係なく、自分さえ良ければいいという考えがある目だ。しかも酷い事に今のオレには何もできない。強者の機嫌を損なわないように機嫌取りを徹底する弱者のようなものだった。


『ベルナはもういないみたいだね』


 脳内で響く彼女の声に我を返す。

 ひとまずはソル王国そのものには被害はなさそうで良かった。


(そっか。ありがとうな)


『……まだ気になる?』,


(……あいつは何の目的で来たか分かるか?)


『あの人は計画を立てて行動するタイプだから、他にあるとすれば、もしかしたら禁書だったかも』


(禁書?)


『望んだ者が神になれるといわれている本が代表だね。現国王が聖なる力を持っているから封印にしていたんだ。過去の戦争でも魔神になろうとした者が罰を受け、現在も残り続けているって聞いたよ。この話を聞いてわかるけど、成功した例は少ないんだよ』


(結局は神の名と力を借りおうとした者はなれず、生涯残る傷を負うから?)


『そう。魔女になってから長い彼女でも、それに気付いている筈。まあ、それを百も承知なのか、もしかしたら他の手段があるのかはベルナ次第だけど……』


 どちらにせよ、犠牲者が出るのは免れないだろう。

 いずれか相まみれる時までには強くにならないといけないのはハッキリした。


「メイ様」


 背後から話を掛けて来たのはカミラ王子だった。彼の後ろを守るようにゴウと騎士が複数人が護衛としている。


「おー王子様か」


「冒険者らしい恰好にしたんだね」


「ああ、騎士達と同じ服じゃオレには窮屈だったわ。我儘を聞いてくれてありがとうな」


「いえ、僕達なりの感謝ですからね。それよりも、もう旅に出るのですね」


「あぁ、もう少しのんびりとしていたい気分もあったけど、やらなくちゃいけない事があるからな。暇ができたら、また寄るよ」


「そうですか、分かりました。どうか無事でまた会いましょう。メイ様」


「カミラ王子達も気を付けてな」


 固い握手を握り、ソル王国を後にする。

 次はカナイ大国。生き別れたクラスに会う為に進むんだ。

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