第三話 能力を試そう
ここはリンユの森。
スライムやゴブリンといった危険度が低いモンスターが生息している。RPGゲームでいえば、序盤のチュートリアルのような場所だ。
オレは転生したばかりで、戦いそのものには慣れていない。所持していた剣を振るい、経験値を稼いでいく。
この体は鬼人族とネヴィラは言った。見た目は人間と何らか変わりもないが、額に角が生えているのが特徴の魔物。大岩や木を投げる怪力を持ち、目にも止まらない速さを持っているらしい。
実際に試してみたところ、超人的な身体能力を持っている事は分かった。あまりにも速すぎて、氷の上を滑って壁にぶつかるような結果にもなった。調整も入れつつ、モンスターまたは木を相手に剣士の練習も兼ねて、実戦を積んでいく。
前の体よりも運動神経は良いし、力もある。男だったせいか、少し情けなくなり、涙を流しそうになるもグッと堪える。
ひと通りと剣と拳を振るい、休憩に入る。あれだけ、自身では全力疾走で戦闘を繰り返していたが、息ひとつと上がっていない。これには驚いた。
しかし……恰好で動きにくいのがある。
見た目で恥ずかしいのもあるが、着慣れていない浴衣に下からスース―して妙な気分だ。何処かのタイミングで冒険者らしい恰好にしたいな。この色気で男を誘ってもオレは嬉しくないぞ。
よくこれで恥ずかしくなかったなぁ、クレナイさんは。
……なんだか悪寒が走ったような?
「なんだか……嫌な空気が流れてる?」
「それは魔力だね」
日陰で休んでいたネヴィラが返事をした。
「魔力って……これは他人の?」
「魔力というのは人や魔物が持っている、魔法を使うためのエネルギー。生まれてすぐに才能や許容量は決まっていて、得意属性も分かれているの。クレナイの身体は、魔力を吸収できるし、魔力感知も異常に高いんだ。私は何となく揺れが感じるという距離だけど、メイには誰かが暴れているような感覚になってると思う」
「へぇーオレは魔法使えるのか?」
「使っていた場面といえば、剣に魔力を乗せるとか肉体強化だね。まあ、その段階までにはもう少し慣れてからやってみるといいよ。それで、魔力から誰が使ってるとかわかる?」
誰が使っているとは? そこまでわかるものなのか?
元まで辿れば、距離から形までわかるか。
ここから東側。五キロ先にその主の形がはっきりとしていく。
黒色の羽を生やした魔物。ワイバーンというよりもドラゴンのような、大きな魔物だ。その下に大人数の人の影があった。
「……ドラゴン?」
「正解。という事でドラゴン退治に行くよ!」
「え、いきなり? ハードでは?」
「実戦で経験を積んでいった方が早いからね~。何かあったら、私もサポートするから行こう」
「えぇ~……」
不安と葛藤している間にもネヴィラに連れて行かれる。
序章のボスといきなり戦うような恐ろしさがあるんだが、お構いなし。
まあ、 やるしかないよな。
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世界地図でいう中心地にあるソル王国という国の北西側で戦闘が始まっていた。栄えている街並みから十キロ先で騎士団が討伐に当たっている。
ソル王国の王子が率いる騎士団。剣聖を除く主力メンバーをドラゴン討伐に立ち向かっている。剣聖は防衛の為に国付近で待機している。
対するドラゴンは『黒い竜』と呼ばれている。世界の歴史の中でも五百年前に一度出現し、一つの国を滅ぼした災厄の竜である。
そんな魔物が自国の近くに出現した事で緊急討伐に派遣された彼等だったが、雲行きが怪しくなっていた。伝説が伝承されている故、王子も騎士団も決して油断はしてない。だが、その実力は想像を上回るものであった。
剣と魔法で応戦するも、黒い竜の行動ひとつで次々と倒れていく兵士達。彼等の中でも実力がある若い槍の使い手、コウ・パトロンと騎士団長のランス・ヴァス。そして、ソル王国の次期王となるカミラ・シュバートが先頭に立っている。
「団長! このままじゃ全滅しますよ!」
「むうう……ここまでとは……」
誰も彼もが傷を負い、その圧倒的な力の差に手が止まる。ただ、突破口だけは探っている。
「諦めるな。僕達が負けたら、王国にも被害が及ぶ。心まで負けたら、そこで終わりだ」
「カミラ王子……」
「確かに……そうですな」
傷を負い、全身が痛む中でも己を奮い立たせる騎士団。
カミラが前線に立ち、全員で立ち向かっていく。
ドラゴンは口を開き、赤く燃える攻撃を放とうとしている。火炎放射により、一気に焼き尽くそうという算段だ。
その攻撃を確認した後、王子は即座にバリアを張り、防御に回る。自身の魔力が尽きない限り、突破されない。
しかし、炎に包まれたバリアは魔力と体力の消耗を激しくさせていく。永遠とも思える地獄のような時間がカミラの中には流れていた。実際には十秒程の火炎攻撃。ドラゴンが止めた時には息切れを起こしている。
膝から崩れ落ち、上半身だけが立っている状態のカミラ。たった一撃で全滅可能な魔法を、たった数秒伸びただけだった。
回復がいるとはいえ、このままでは歯が立たずに敗北するのは目に見えていた。
それでも、彼等の目は死んでいない。
どうせなら、王子だけを逃がす作戦と、兵士全員が同時に前に立つ。
その考えから察したカミラは剣に支えながらも立ち上がる。
「みんな……先に死ぬのは許さない」
「俺達にもカッコつけさせてくださいよ。王子様を最期まで守り抜いた兵士としているだけですから」
「だってよ。カミラ王子だけでも逃げろ。全滅するよりはマシだ」
「でも……!!」
「国を守るのが兵士の役目。王子を守るのも同等。祖先に恥じない最期にしたいのは皆々同じ。さっさと逃げるんだ!」
「皆を残して行けないよ! 僕だって、気持ちは一緒さ。このまま共に死のう」
「へっ、わがままな王子様だな」
「全くですな」
二撃目の火炎を放とうと準備している黒い竜。
もうそろそろ終わらせようと溜めが長くしているようだ。
しかし、ドラゴンも含む彼等には思わぬ者が現れる。
対立している横から出て来たのはメイ。状況がわからないまま、とことことドラゴンに近付いていく。
その彼女を見て、呆然としていた騎士団は注意する。
「おいそこの人!! 早く逃げろ!!」
大声に聞こえ、振り向いたが立ち止まってしまった。
火炎の範囲が広い以上、巻き込まれるであろう。だが、彼女の元には誰も辿り着けない。
直後、黒い竜の頭部で何かが爆発した。ドラゴンが絶叫し、メイの方向へ狙いを定める。
「うお、こっち向いた」
目に見えぬ速さで胴体の下に移動し、腕を大きく振ると竜が弾き飛んでいった。数メートル先まで飛ばされてもなお立ち上がろうとしている。
回復させる隙も与えないように追撃。鞘から剣を抜き、一刀両断する。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
大地も揺るがす絶叫が響く。
ドラゴンは最後の足掻きも終わると、黒い靄が空中に浮かんでいくと共に、二度と動かなくなった。
「…………終わっちゃったよ」
彼女の後ろでうおおお、と喜びと声が上がる。
騎士団の誰もが討伐した事に安堵し、メイに駆け寄り笑顔で感謝をする。
「助かりました!」
兵士全員がそう言う中、王子が割って入ってくる。
「助かりました。協力感謝します。差し支えなければ、お名前を聞いてもよろしいですか?」
「メイです」
「メイさんですね。最初は迷った人がこんな所に出てきて驚きましたよ」
「いやぁ、迷っていたのは本当でですね。何やら戦いの音が聞こえたんでこっちに来てしまったんですよ」
「旅人でしたか。宜しければ、ソル王国でお泊りしませんか? 討伐の感謝もしたいので」
「いいんですか? この服装、動きにくいんで新調もしたいんで寄りたかったんですよ」
「いいですよ。お代はこちらが出しますので」
「では遠慮なく。お願いしますね。ところでお名前は?」
「僕はカミラ・シュバート。こっちのやんちゃそうなのがコウ・パトロン。この方が騎士団団長のランス・ヴァスです」
カミラは白金に近い金髪、緑色の瞳の美形イケメン。コウ・パトロンが青髪に碧眼の目付きが悪い青年。ランスさんが歴戦のような風格がある髭を生やした茶髪に茶色の瞳の男だ。
「よろしくお願いしますね、皆さん」
こうして、オレは彼等と共にソル王国へ向かった。




