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12話 不器用な力、不器用な優しさ

ラグレデスの黒い稲妻が荒野を烈しく引き裂き、エリオの幻影とフィリィの癒しの花が渦巻くように複雑に絡み合う。ジークヴァルトは膝をつき、土埃の中で荒々しく息を切らしていた。

その姿は、絶望と希望の狭間で炎を宿す“勇者”の本性そのものだった。


だが、ミナリアがすっと手を伸ばし、彼の背をしっかりと支える。「ジークヴァルト様……!」

ミナリアの温もりが、闘いの絶望を打ち砕き、ジークヴァルトの胸に新たな火を灯す。


「ありがとう、ミナリア。――ここからだ!」

その言葉に、彼自身の鼓動が再び熱を帯びる。


戦いの炎は荒野にさらに広がり、ラグレデスが雷鳴のような咆哮を上げて闇の力を解き放つ。

「受けてみろ、《黒炎爆雷斬》!」

黒い稲妻が激しく大地を貫き、空が一瞬、漆黒の光に包まれた。


フィリィは柔らかな笑みで両手を広げる。

「みんなで一つに、《花夢結界》!」

大輪の花が咲き乱れ、戦場をやさしい結界で包み込む。花の光が、荒野の闘いにひとときの癒しの波を注ぐ。


エリオが軽やかにコインを投げ、金色の光が無数の幻影に変わる。

「これで決まりだ!《幻惑万華》!」

鏡像が宙にきらめき、光と影が戦場を奔流のように覆った。


三人の大技が交差し、闇と花と幻影が渾然一体となって爆ぜた。轟音と爆風が荒野を揺さぶり、砂煙がすべてを覆い隠す。爆発の中心は混沌と希望の渦――誰もその先を見通せない。


やがて煙が晴れると、ラグレデス、フィリィ、エリオがすすけた顔で地面に倒れていた。


「お前ら、俺の技を台無しにするな!」とラグレデスがうなる。


フィリィが頬を膨らませる。「あなたこそ、私の邪魔をしないで!」


エリオは肩を落とし、地面に転がったコインを探してぼやく。「はぁ、俺のコイン、どこ行ったんだ……」


三人は互いに睨み合い、肩を小突き合いながら、ふいに吹き出して笑い合った。

「お前らとはやってられないな」と誰かが冗談めかして言い放つと、他の二人もつられて笑い声を上げるのだった。

――戦いの熱が、奇妙な友情の炎に変わりはじめていた。


そのとき、ジークヴァルトが剣を携え、歩み寄る。「なぜ、君たちはその力を遊びに使う?人を害するなら斬る」と低く告げ、その剣の意志は三人の胸に烈しく突き刺さった。


しかし、ミナリアが息を切らせて駆け寄る。「ジークヴァルト様、待って!この人たちは悪い人じゃないよ!」

その声は、戦場の熱気を柔らかな波動で包み込み、荒野に新たな風を吹き込む。


エリオはミナリアを見つめ、ぽつりとつぶやいた。「なんて……優しいんだ……」

ラグレデスは顔を赤らめ、そっぽを向く。「ちっ、可愛くても騙されねえぞ……」

フィリィはジークヴァルトを見上げ、潤んだ瞳で言った。「やっぱり、勇者様は強い……」


一瞬、戦場の熱気が柔らかな温もりへと変わる。

その瞬間、三人の胸に新しい“憧れ”と“きらめき”が宿り、空気が静止するほどの余韻が生まれた。


ジークヴァルトは小さく息をつき、静かに呟く。「君たち、一体何者だ……?」


村はずれの荒野で、三人組はすすけた顔でジークヴァルトとミナリアの前に正座していた。

やがて、エリオが苦笑を浮かべて口を開く。


「俺たち、ほんと色々やらかしてきたんだ。……前に、町の広場で親から金をだまし取って『金貨を無限に増やす』見世物をやったんだけど、俺の金は全部偽物だった。最後は全部チョコレートコインに変わってさ。子どもたちにはウケたけど、親たちにめちゃくちゃ怒られて、町から追い出されて、ずっと路上暮らしだよ。」


フィリィが肩を落とし、悔しさと誇りをこめて語る。「私は町を花で飾ろうと、花粉の魔法を使ったの。でも、花粉症の人がくしゃみ連発で……皆、迷惑そうだった。きれいにしたかっただけなのに。」


ラグレデスは腕を組み、そっぽを向いたままぼそりと言う。「俺は町のごろつきを力で改心させようと、酒場の壁を片っ端からぶっ壊した。……そしたら役人に捕まって、三日間水もなしだった。」


エリオが地面を指でなぞりながら、少し照れくさそうに笑う。「他にもさ、市場で『幻の黄金の卵』を売ろうとしたら、中身カラッポ。バレて、俺だけボコボコにされたよ!」


フィリィは遠い目で呟く。「子どものためにお菓子を魔法で増やしたかったけど、やりすぎてお菓子の山で埋もれちゃって。皆、困ってた。私、加減が下手なんだ……。」


ラグレデスがため息をつき、ぽつりと口にする。「要するに、俺たち三人でやっても、いつも失敗ばかりだ。」


三人の言葉には、過去の失敗と、それでも消えない“仲間”への情熱が刻まれていた。


ミナリアは三人の話を聞き、胸を痛める。そっとジークヴァルトの袖を引き、柔らかく微笑みながら言う。

「ジークヴァルト様、この人たち、根は優しいよ。きっと力になってくれる。仲間に入れよう?」


エリオが真剣な目で訴える。「頼むよ、勇者様。俺たち、やる気は本物なんだ。一緒に旅させてくれ!」


ジークヴァルトは困惑しつつも、ミナリアのまなざしに押され、深く息をつく。

「……分かった。君たちを信じる。ただし、勝手な行動は禁止だ。」


三人は目を輝かせ、「やった!」と声を揃えてハイタッチを交わす。

その声は荒野に高く響き、新しい“絆”の幕開けを告げていた。


荒野には新しい仲間たちの明るい声が響き、奇妙な五人の旅が、今、烈しく動き出そうとしていた――未来を切り拓く運命の炎として。

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