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11話 勇者VSトラブルメーカーズ!――荒野のズレズレ大乱戦

夜明けの光が、まだ眠る荒野の地表を淡く照らしていた。

ジークヴァルトは立ち止まり、足元に冷たい朝霧が絡む中、遠くの地平線へ烈しいまなざしを送っていた。その背筋には運命を貫く決意が燃え、かすかな孤独の波動が空気を震わせている。


ミナリアは勇気を振り絞ってジークヴァルトの隣に並んだ。小さな手が無意識に袖の端を握りしめる。

「ジークヴァルト様、これからどちらへ向かうのですか?」と声をかける。震える声には、隠しきれない不安と、胸奥から湧き上がる信頼が混ざり合っていた。


ジークヴァルトはゆっくりと片手を持ち上げ、霞む丘の彼方を指さした。

「……あの村へ行こう。どういうわけか、あそこに運命の導きが待っている気がするんだ」

その横顔には、勇者としての自信と、わずかな迷いが入り混じっていた。それでも、彼の目は遠くにある“未来”を見据えている。


ミナリアは小さく頷いた。目元に希望の色が宿る。「はい、私もご一緒します」

朝霧の彼方へと続く道に、ふたりの小さな決意が、かすかな光となって浮かび上がった。

そうして二人は、朝の光と霧に包まれながら、村へ向かって歩き出した。


荒れた小道の先には、三人の浮浪者めいた影が立っていた。ぼろぼろの服に、物憂げな表情を浮かべているが、その目は鋭く輝いていた。――不穏な運命の予兆が、ここから始まろうとしていた。


少年のような背格好のエリオは顎に手を当て、にやりと笑う。

「おい、あれ……勇者とその連れだぜ。間違いねえ、噂のやつだ」

その目は、すでに何か企んでいる様子で、獲物を狙う光が宿っていた。


ラグレデスは不機嫌そうに唇を歪め、地面に唾を吐いた。「勇者だとよ。世間がどれだけ騒ごうが、大した奴じゃねえ」

二十歳前半の筋肉で覆われたしなやかで長身の体つきで、腕を組み、堂々とした態度でジークヴァルトを睨みつける。その視線には、獣のような烈しい対抗心が滲んでいる。


フィリィはラグレデスの肩を肘で軽くつつき、口元に柔らかな微笑みを浮かべる。

「ふふ、ラグって妬いちゃったの?だって勇者って、聖域の女の子たちにすごく人気だったんだよ。やっぱり素敵だね」

二十歳の若い女性で、スタイルも良い。けれどその声はどこか幼く、無邪気で、場の空気を少し和らげていた。――だが、その無邪気さの奥には、予測できない魔性の輝きが潜んでいる。


「バカ言うな。そんなこと気にするかよ」とラグレデスはそっぽを向き、拳を強く握りしめた。


エリオは二人のやりとりを気にも留めず、ジークヴァルトの剣と鎧を値踏みするようにじっと見つめていた。

「あの装備、なかなかの値打ち物だな。ちょっと騙してもらうか」


フィリィも瞳をきらきらと輝かせていた。「勇者様となら遊びたいな」

無邪気な調子で言いながら、ひときわ興味をひかれている様子だった。


ラグレデスは指の関節を鳴らしながら、不敵な笑みを浮かべる。「たまには派手に暴れてみるのもいいか。どうせ勇者なんて、見た目だけだろ」


三人は、それぞれ胸の内に思惑を隠しつつ、軽やかな足取りで二人に近づいていった。

朝の光が三人の影を長く地面に落とし、その影はやがてジークヴァルトたちの進む道に重なっていく――新たな戦いの幕開けである。


村はずれの細い道で、ジークヴァルトとミナリアが歩を進めると、三人の姿が突然目の前に現れた。

エリオが手を大きく振って、陽気な声を響かせる。「おはようございます。勇者様にお会いできるなんて、今日は運がいい」と幻惑の声で勇者をたぶらかそうとするが、ジークヴァルトの心には一切届かない。

――この場面が、すべての運命を大きく動かす序曲となる。


ラグレデスは前に出て、ジークヴァルトに挑むような視線を向けた。「その剣、飾りじゃねえんだろうな。少し腕前を見せてみろよ」

その言葉には、烈しい闘志と誇りがこもっていた。


フィリィは乙女のようなまなざしでジークヴァルトを見つめる。「勇者様……素敵」

その目には憧れの光が浮かんでいる。


三人組のやり取りは、朝靄の中でもほんぽうな自由と“混沌の余熱”を放っていた。


ミナリアは恐怖に顔を強張らせて、そっとジークヴァルトの背に身を隠した。細い指が勇者の袖を必死で掴む。頼りなげな横顔には、言葉にできない不安が色濃くにじむ。

――それでも、彼女は絶対に勇者の背を離さないと心の奥で誓っていた。


ジークヴァルトは半歩前へ進み、力強い声で問いかけた。「君たちは……旅の者なのか?」


すると、フィリィがぱっとスカートの端を持ち上げて一回転した。目を輝かせながら、ミナリアをからかうように笑う。

「勇者さま、私と遊びませんか? こんな小娘より、私のほうが絶対きれいですよ~」

風に舞う花びらが、彼女の足もとに優しく降り注いだ。――だが、その無邪気さの奥に、不思議な力が渦巻いている。


エリオはジークヴァルトの剣に目を細め、柔らかな声色で話しかける。

「もしよかったら、その剣、僕に見せてくれませんか? ちょっと刃こぼれがあるようなら、すぐに直せますよ」と詐欺の声を使うが、勇者にはまったく効かなかった。


ミナリアはジークヴァルトの背後から【対称逆転の目】で三人を見つめ、そっと注意をうながす。

「ジークヴァルト様……この人たちも人と違う、でも、悪意はない。無邪気?」


ジークヴァルトは鋭く頷き、三人を警戒しながらも見据える。


その時、ラグレデスが地面を踏み鳴らし、低い声で笑った。「勇者ってのは、そんなに強いのか? だったら、ちょっと試してやる!」

その言葉と同時に、彼の足元から黒い炎がゴウッと立ちのぼる。腕を高く振り上げると、黒炎が槍となり、唸りを上げてジークヴァルトめがけて放たれた。

空気が裂けるような衝撃――新たな“強敵”との戦いが、いまここに始まる。


ジークヴァルトは素早く剣を抜き、炎の槍を見事に弾き返した。しかし、その衝撃は予想以上に重く、勇者の足が半歩ほど下がる。「なんて威力だ……!」


フィリィは無邪気な笑みを浮かべ、ラグレデスの横をするりとすり抜けた。

「ラグ、邪魔しないでよ。勇者様、こっちへどうぞ。夢の花園で一緒に休みましょう!」

フィリィの手がひらりと舞うと、荒野の地面から一斉に色とりどりの花が咲き誇り、あたり一面が幻想的な花畑へと姿を変えた。

――この幻想こそ、彼女の“本当の力”の片鱗だった。


ジークヴァルトはとっさにミナリアを抱き上げ、花畑から飛び退いた。だが、優雅な花々から立ち上る薄紅色の花粉が、勇者の周りに甘い香りを広げていく。


フィリィは悪戯っぽく笑い、手を口元に当てる。「勇者様、そんなに照れなくてもいいのに。ツンデレですね」


「ミナリア、下がれ!」ジークヴァルトはミナリアを背に庇い、鋭い声で叫んだ。だが、花粉の香りが次第に彼の意識をぼやかしていく。「くっ……この花粉、目が……」


その隙を逃さず、エリオが軽やかに宙を舞った。「詐欺が効かない勇者様には、僕の次の手品を見せてあげよう!」

彼は銀のコインを指先で弾き、地面に投げつける。途端にジークヴァルトの足元から幻影の茨が這い出し、鋭い棘で勇者の足首を絡め取った。


だが、茨の蔦は勢い余ってフィリィの花園を壊してしまい、花粉の力が弱まる。

「ちょっと、エリオ! 私の魅惑の花園、めちゃくちゃにしないでよ!」フィリィはぷくっと頬を膨らませて抗議した。


「知るかよ!」エリオは肩をいからせて笑う。


ジークヴァルトは渾身の力で剣を振り下ろし、幻影の茨を断ち切る。「お前たちは……何者なんだ、本当に……!」


ラグレデスが哄笑しながら、闇の剣を抜いてジークヴァルトに斬りかかる。「これで終わりだ!」

だが、剣と盾がぶつかり合うが、ラグレデスは途中で突然動きを止めた。「ぐっ……フィリィ、てめえの花粉、俺まで誘惑してどうすんだ!」


フィリィは慌てて両手を振り回す。「あれ、おかしいな……」花粉はますますラグレデスに集まっていく。


剣と闇、花粉と幻影――三人組の連携はどこまでも噛み合わず、それぞれの“力”が余韻のように周囲に拡がっていく。

だが、その混沌の中で、ジークヴァルトはかつてないほどの強敵に囲まれていることを痛感していた。

「なんなんだ、こいつら……強い……!」


――この瞬間、勇者たちの運命がまた大きく、激しく、回り始める。

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