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10話 三天族トリオの珍道中!~サイクロプスは花畑の夢を見るか?~

蒼穹都市群の頂には、最も高位の天族が集う特別な聖域があった。

彼らは人とは違う姿と不思議な力を持ち、空の上で気ままに日々を過ごしていた。


やがて天地が逆転し、世界が激しく揺れた。

その瞬間、聖域もろとも天族たちは海底へと沈んだ。

それぞれの魂は元の姿に戻り、天上の力は魂の奥深くに残されていく。

勇者もドラキュラも、かつてはこの聖域で暮らしていた天族の一人だった。


その中でも、とりわけ自由で厄介な三人の天族がいた。

一人は闇と強さ、支配と破壊への渇望を抱え、悪魔・ラグレデスとなった。

もう一人は優しさと純粋な祈り、自然への共感を残し、妖精・フィリィとなった。

そして最後は、知恵と器用さ、真実と虚構の狭間を渡る詐欺師・エリオである。


三人は、辺境の寂れた町はずれの古い井戸のそばに腰を下ろしている。

かつて空で交わした悪戯の誓いを思い出すように、星のちりばめられた夜空を見上げていた。


「ちぇっ、お前たちといると、ちっともうまくいかないんだよ!」

エリオが地面を蹴る。

ラグレデスとフィリィが同時に返した。

「どうして私たちが、詐欺師のあなたに従わなきゃいけないの?」フィリィが真顔で言う。

「ふん、むしろお前こそ俺に従え。そっちが正しいだろ?」ラグレデスは冷たく言い放った。


エリオは騙すことに喜びを感じている。

フィリィは「人を欺くのは悪いこと」と止めに入る。

ラグレデスは「力でねじ伏せればいい」と鼻で笑った。


三人はいつも三者三様。

相反する性格をぶつけ合い、何を始めてもまとまらない。

計画はことごとく失敗し、誰も主導権を握れず、井戸端で言い争っている。


それでも、その場には生き生きとした熱気が満ちていた。

元は天族同士。

空の上でも悪さばかりしていた三人だ。

天地がひっくり返り人の姿になっても、その関係は変わらないままだった。


町の人々は、三人を厄介者扱いしていた。誰も近寄ろうとしない。

三人は市場の軒先で肩を寄せ合い、静かに座り込んでいる。


「今日も失敗しちゃったね……」フィリィがぽつりとつぶやく。

ラグレデスもため息をこぼした。「ダメだったな……」

エリオは両手で頭を抱え込む。「ほんと、ほとほと困ったもんだぜ……」


三人がしょんぼり空を見上げる。遠く天の岩盤から、一筋の光が差し込んでいた。

「あれ、天の岩盤から光が差してるぞ?」エリオが目をこらす。

フィリィも「あれは何だろう……どうしたのかしら」と首をかしげる。

ラグレデスも珍しく興味を示している。


やがて、エリオが立ち上がる。「なあ、あそこに行けばきっと何か面白いことが起きるかもな! 行こうぜ!」


三人は浮浪者のような姿で町はずれを歩き始めた。「天の光の正体を暴くぞ!」とエリオは気合いを入れる。


だが、その前に巨大な一つ目のサイクロプスが立ちはだかった。毛むくじゃらの巨体。丸太のような腕。地響きのような咆哮。「またかよ……」とエリオがため息をつく。「変な化け物、出てきすぎだろ」とラグレデスがぼやく。

フィリィは小声で、「たぶん、聖域のえらい人に嫌われてるのよ」とフォローした。

三人は、聖域で高位の天族の怒りを買っていたのだ。


サイクロプスは威圧的に立ちふさがるが、三人は怯まない。

ラグレデスが不敵に笑い、「こんな奴、黒炎でひとひねりだ!」と両手から闇の炎を放つ。「闇の黒炎、吹き荒べぇ!」


だが、フィリィが前に出る。「ダメよ、ラグ! サイクロプスだって可哀想。元は天族だったんだから!」

花粉の魔法「花夢の祝福!」で辺りに花粉を散らす。サイクロプスはくしゃみを連発し、「ハックショーン!」と涙目で訴える。「やめろよぉ~」


エリオは偽物の金色コインを投げる。「幻惑っ!」

サイクロプスは惑わされ、不思議な踊りを始めた。

三人は腹を抱えて笑う。「こいつ、エリオの幻惑が効いてるぞ」とラグレデスが指差す。

「エリオの幻惑が効くなんて、可哀そうよ」とフィリィが体をよじって笑う。「俺の幻惑はおもしろいだろう。上級でも効くんだからな」とエリオは胸を張った。


フィリィが「お花畑が楽しそう」とつぶやくと、サイクロプスの足元からぱっと花があふれ出した。サイクロプスは花に埋もれて、もがき苦しむ。けれど、フィリィは「わあ、きれい」「お花畑で踊ってる」と無邪気に喜んでいる。

ラグレデスは「花などいるか」と冷たく言い放ち、手で花を一気に吹き飛ばす。


サイクロプスは三人の応酬に「もうやだ……」とギブアップし、棍棒を投げ捨てて「グガーッ!」と爆音いびきで眠りはじめた。


三人は一瞬きょとんとし、顔を見合わせて口々に声を上げる。


「なあ、これ勝ったことになるのか?」とエリオが眉をひそめる。

「別に、俺たち何もしてないぞ?」とラグレデスが肩をすくめる。

フィリィはにっこり微笑んで、「どっちでもいいよ。また一歩進めたもん」と明るく返した。


こうして、奇妙な三人組の騒がしくも不思議な旅は続いていく。

古びた服とぼさぼさの髪。元天族らしさゼロの浮浪スタイルで、三人は次なる面白事件に胸を弾ませていた――。

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