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死神退治はオルタナにっ!  作者: ねめしす54
第一章 死神へと贈る噺
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一章第1話  【放課後の小さな争い】

「ねぇ、聞いてる?」


 放課後の教室、もう少しで夕暮れになるくらいの時。

寝ていた柳はそんな猫撫で声が聞こえ(きょう)(ざき)(やなぎ)は起きた。

 もうこんな時間か、と思った柳。

 視界がぼやけていたので少し目を擦り、身体をグッと伸ばした。


「あ、やっと起きた」


 柳の耳元でそんなことを言われた。

 だが、この柳はこの声に馴染みがなかった。

 そして、柳は相手の顔を見たが、誰かがわからなかった。


「あんた誰だ?」


 柳はその少女にそう聞いた。

 少女の見た目を一言で表すと清楚系と言ったらいいのだろうか。

 とても綺麗な顔立ちをしており、少し長いまつ毛に、オレンジ色の瞳。

 サラサラロングの黒髪が頭の後ろで綺麗に一つに括られている。


「私? そんなの後ででいいでしょ?」


 予想外の答えが返ってきたことに少し戸惑う柳。

 それでも、その少女は何か急いでいるようだった。

 足を少しジタバタさせ、少し暑そうに制服をパタパタさせる。


「それで? 俺に何かあるのか?」


 柳はそう言った。

 こういう時は臨機応変が大切なんだ、と思う柳。

 だがそんな気持ちもわからずに少女は柳に言う。


「少しついてきて」


 少女はそんなことを吐き捨て、教室から出て行った。

 置いてかれた柳は急いで少女の後を追った。


 ◇◆◇◆◇


 追いかけてついたのは体育館の裏。

 柳はここまで走ってきて汗だくになってしまった。


「はぁ、こんな所に連れてきてどうしたんだ?」


 柳は呼吸が乱れつつも、振り切ってそう聞いた。

 そして数秒の間が空いた、だが少女はその問いに答えようとしなかった

 柳に背中を見せている少女、一体何を考えているのかがわからない。


 でも一つわかったことがあると言えば。


「ねぇ、京崎くんだっけ? 早く教えてよ」


 この少女は()()()()の人間だ。


「君の秘密を……」


 そう呟いた瞬間に、その少女は地面の砂利を柳の方に蹴り上げた。


「――――――っ!」


 すぐに顔を腕で覆う柳だが、タイミングが悪く目に砂利が入り視界が奪われる。

 苦しそうにする柳などお構いなしに、腹に一発拳を入れる少女。


「がはっ!」


 腹を殴られた衝撃で、柳は口から血を吐いた。

 柳は少し後ろに下がり、体制を整える。

 ちょうど柳の視界が戻った頃、あることに気づいた。


 その少女はナイフを持っていた。

 器用に指の隙間に挟んで持つように、それを柳に見せつけた。


「私のナイフより自分のことを心配した方がいいんじゃない?」


 少女は冷たい視線でそういった。

 少し疑問に思う柳、よく見るとその少女の制服に多くの血が付いていた。

 自分が吐いた血じゃないのかと思ったのだが、柳はもう一つのことに気づいた。


 ―――何か腹に違和感がある。


 殴られた割には少々痛みが続く、何かあったかいものを当てられているような感触だ。

 そして柳の腹はジンジンと熱くなっていく。


「ようやく気がついた?」


 柳の腹には三本のナイフが刺さっていた。

 それに気づいた途端、柳の腹に激痛が走った。

 そして膝から崩れ落ちる、立てないほどの痛みが柳に流れていく。


 ナイフを刺した少女はニコッと笑う。

 まるで楽しんでいるようだった。


 そして動けなくなった柳に近づく少女。

 ナイフをカチカチと擦り合わせて、柳の目の前で止まる。


「ほら、早く秘密を教えてよ」


 足をジタバタさせて柳を急かす少女。

 風が艶のついた黒髪を揺らした。


 そして少女は続けて喋る。


「なぜ京崎くんには心が二つあるのかを……」


 そう言われた瞬間、柳の顔が変わる。

 なぜこの秘密を知っているのか、これは誰にも教えていないはずなのに、と。

 そして、柳の目が変わる。


「本当に知りたいのか?」


 柳はゆっくりと立ち上がった。

 腹に刺さったナイフと抜き、手で押さえる。

 そんな行動に訝しげに見る少女、それはそうだろう、ナイフを抜いた方が血は逆流するはずだ。


「でも教えたいのは山々だが、こいつは一年前から俺の中で眠り続けているんだ」


 柳はそう自信満々に言って親指で心臓を指す。


「でも意思だけなら見せられる」


 柳はそう言って目をギュッと瞑る。

 そして姿勢を構える。

 視界がなくても戦える、痛みがあっても戦える。

 自分は一人ではない、心にもう一つの命がある、それをただ守るだけ。

 ただ自分が命の危機なら少しだけこの心の命に助けをもらうだけ。


「俺は今目を瞑っている、だから今の俺には頼れる視界がない」


 そんな当たり前のことを柳は言うが、その少女は真剣な顔だ。

 感情がないように無表情だが、心では少しだけ覚悟している。


「それでも俺はお前に勝てる、お前の攻撃を全て受け止めてやるよ」


 柳はそう少女に挑発する。

 少女は少し表情が緩んだ、視界がなくでどう私の攻撃を受け止めるんだ、と心で思う。

 そして数秒の間が空いた、だが柳の姿勢は一向に変わらない、それどころか柳は手を振って挑発を続ける。


「早くこいよ」


 そんな挑発が何回か続いた後、彼女はようやく乗る気になった。

 少女はナイフを丁寧に指の隙間に挟みなおして、少し姿勢を崩す。

 その少しの地面の擦れた音で柳は来るのを感じる。


 いつ来るのか、そんな緊張に柳は頬に少し汗が滴れてくる。

 その汗が顔の下に滴れて、ぽたっと音もなく地面に落ちる。


 それが始まりの合図だった。


 ―――来る!


 そう思った瞬間に、前から風のようなものを感じる。


 その少女が思いっきり地面を蹴り上げ柳の方へ突っ走る。

 そしてその初速を利用してナイフを投げた。


「……これで終わりよ」


 投げられたナイフは凄まじい速度で柳に向かっていく。

 少女は動きを止めて柳の様子を伺う。

「さて、どうする……」と小さく呟いて流れ作業のように素早くナイフを補充する。


 それでも柳は動こうとしなかった。

 いや、動くきがなかった。

 少し微笑んだ状態で柳の顔や体にナイフが近付いてくる。


 ―――そろそろか。


 柳の体が少し動いた。

 そして一呼吸する。


 とっくに準備は整った。


「時間だ、『オルタナ』」


 柳がそう呟いた瞬間、少女は少し不思議そうに柳を見た。

 もうナイフの先は柳の体に食い込んでいる。

 だが、もうそんなのは関係なかった。


 少女が投げた全てのナイフを柳が綺麗に指で挟み止める。


「――――――っ!」


 少女は声にならない声をあげる。

 ありえない、ありえないと感じる。


 ―――あんな速度のナイフをどう指で止めた?

 ―――視界が失われているのにどうしてナイフの場所がわかった?


 そんな疑問が少女の頭の中で飛び交う。

 だがその疑問もすぐに確信に変わった。


 ―――全ては柳の中だけにあるもう一つの心が関係していると。


「たった四本のナイフで俺を倒せると思ったのか……」


柳は目を開いてそう呟いた。

指で挟んだナイフを少し遠くに投げて、その少女に近づく。

少女もとっくに柳に怯えている。


「やめてっ! 来ないで!」


少女はそんな情けない声を出しながら柳から離れる。

手に持っていたナイフを放り出して、いつしか少女は後ろに倒れ込んでしまい、目から少々の涙を流した。

地面を這いずり必死に逃げようとする。


そんな少女を見る柳は少し呆れていた。

この怯えを柳はすぐに演技だと見破った、その少女の手をよく見ると制服の袖にナイフを隠していた。


「怪しいことをするな」


柳はそう言って少女が落としたナイフを拾い、袖に刺さるように投げた。


「.......ひっ!」


そんな情けない声を出して、少女は体を丸めておとなしくする。


「もう大丈夫だ『オルタナ』、あとは俺がやる」


柳はそんなことを呟き、少女に近づいた。

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