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告白の返事を雨で決めると噂のギャルに告白したらふられなかった件

作者: 大辺貴渡

 高校に入学して約1ヵ月。

 ある日の放課後、屋上。

 オレは一人、心の中で気合を入れていた。


 宣誓! オレ、忍野黙流(おしのだまる)は、人生初の告白に正々堂々と挑戦することをここに誓います。

 

 相手は同じクラスの女子、水波葵(みなみあおい)

 学年一、あるいは学校一の美人と目される、クールな美少女だ。

 見た目は金髪ミニスカの所謂ギャル。

 あまり人とつるまないタイプのようで、教室では常に窓の外をぼーっと眺めて過ごしている。

 入学当初、そのアンニュイな横顔とミステリアスな雰囲気に多くの男子が心奪われたのは記憶に新しく、今でも水波を一目見ようと他クラスの男子が廊下を横切ることがある。

 

 そんな美少女が異性に告白されない訳がなく、オレが把握しているだけで8人。8つの恋が儚く散っている。それも特殊な振られ方で。

 あくまで噂なのだが、なんと水波は雨が降るかどうかで告白の返事を決めるというのだ。

 何を言ってるのか分からないと思うが、オレにも分からない。

 要約するとこうだ。


 まず水波は告白されると腰に差した傘をさす。

 その時点で「ん?」となるが今は置いておこう。

 次に雨が降る。

 そこでまた「ん?」と思うが一旦流そう。

 最後に「ごめん」の一言で振る。


 わかったかな?

 いや全然わからんわ。

 

 ――水波に告白すると雨に降られ振られる。

 

 なんて噂が流れ、いつしか水波への告白は「雨ギャルチャレンジ」と呼ばれるようになり、一種のイベントと化していた。


 雨が降れば失敗。

 降らなければ成功。


 思春期の学生の興味を引くには最高の催し物だった。

 水波が告白された翌日は、まるでドラマやアニメの話で盛り上がるかのように、


「昨日の雨チャレの結果聞いた?」

「えー知らなーい、教えてー」

「今回は、〇組の〇〇君が――」

「えー嘘ー」


 なんていう個人情報ダダ漏れな会話が行われている。

 漏れている理由は不明だ。

 雨が降るからなのか、誰かが言いふらしているのか。

 とにかく水波に告白した者は即座に特定され、話のタネになってしまうのが現状だ。


 そのリスク付きと分かっていながらもオレは水波に告白する。

 理由は単純で、クラスの陽キャな男子たちにそうしろと言われたからだ。

 彼ら曰く、地味で根暗で陰キャなオレを使って「雨チャレ」で賭けをするらしい。

 オレには理解できない陽キャの遊びだ。

 そんな趣味の悪いゲームに興じるくらいならオレは陰キャでいい。

 心の中でそう思いながら、しかし彼らの命令に背く勇気はなかった。

 一対一(サシ)ならまだしも、複数で来られては抗う気など起きないというものだ。


 父さん、母さん―――ごめん。

 

 オレの黙流という名前には両親の苦い人生経験から「黙るな流されるな」という想いが込められている。

 それを踏みにじるように「黙って流されて」、今オレはこうして屋上にいる。

 せめてもの抵抗として身バレ防止の策は講じた。

 あとは待つだけ。

 

 すると前方の扉がキィィと開き、金髪の少女―――水波が姿を見せると、ゆっくりこちらに近付いてきて足を止める。そしてオレが何か言う間もなく、先に彼女が口を開いた。


「忍野、だっけ? 今時手紙で呼び出すなんて、珍しい事するね。しかも屋上って、普段立ち入り禁止でしょ?」


 苗字を覚えられていてちょっと嬉しい―――じゃなくて。

 まさかの先手を取られ、慌てて脳をフル回転させる。

 手紙は彼女の連絡先を知らないのと、どう話し掛ければいいか分からなかっただけだが、わざわざ伝える必要はないだろう。屋上に関しては身バレ防止を優先したため、責められてもしょうがないと割り切っている。ただ―――


「………オレが出入りしてるのは秘密にしてくれると助かる」

「ふぅん」


 素っ気なく返事をした水波は、初めてここに来たのか、興味津々と言わんばかりに周りを見渡している。

 その隙に不躾ながらオレは彼女を観察する。


 整った顔立ちに、気の強そうなつり目。

 すらっとした細身の体型の割に出るとこは出ている。

 腰には相変わらずベルトか何かで武士の刀のように傘を差していて異様だ。


 教室で見て知っていたとはいえ、正面からは初で緊張する。

 更にこれから告白すると思うと鼓動がどんどん早くなる。 

 オレは密かに軽く深呼吸。

 心を落ち着け、いざゆかん。 

  

「あああのっ!」


 やばい! 全然落ち着いてない!

 さっきは冷静に対処できたのに。

 先のことを意識しすぎてしまった。


「ん?」


 水波の視線がオレに向く。

 こうなったら一気に言うしかない!


「オレとっ! つつ付き合って、下さい!」


 言った。

 言ってやった。

 これにてミッション終了だ。

 後は彼女に任せよう。

 噂通りならこの後は――


「………悪いね」


 彼女は呟くようにそう言うと、右手を左の腰に持っていく。傘の持ち手を掴み、すーっと抜くと、天に向かって真っ直ぐに構えた。

 その一連の動作があまりに美しく、一瞬傘が刀に見え、そのまま斬られるんじゃないかと錯覚した。

 勿論そんなことはなく、彼女はバサッと傘を開くと肩に乗せる。

 そしてお互い示し合わせたように無言の時間が始まった。

 オレも水波も、これからある現象が起きると確信しているからだ。


 待つこと10秒………20秒………30秒………………1分。


 一体どれぐらいで降ってくるんだろうか。

 さすがに会話もなしに向かい合っているのは気まずいんだが。

 早く降って振られて、いつもの日常に戻りたい。

 地味で根暗で陰キャな俺が水波と関わるのはこれで最後だ。

 光と闇は同居できない。

 オレは闇の世界に帰らせてもらう。

 

 ………ところで………あの、まだですか?


 沈黙に耐えきれなくなったオレはチラリと水波の顔を確認する。

 するとそこには、こっちがビックリするほど動揺した表情で眼を左右に泳がせている水波がいた。

 とてもクールとは言えない慌てっぷりに思わず笑いそうになるのをなんとか堪える。

 察するに水波にとっても想定外の事態なのだろう。

 とは言えずっとこのままでいる訳にはいかない。

 今の水波はあてにならなそうだし、オレが行動するしかないよな。

 

「………降ってこないな」


 静寂を壊したオレの言葉に水波がビクッと肩を震わせる。

 そのびくびくした姿にオレは落ち着きを取り戻していた。

 不思議なもので、目の前に慌てている人がいると逆に自分は冷静になれるものだ。状況にもよるかもしれないがな。

 水波は焦点が定まっていなそうな目をこちらに向ける。


「ふ、降ってこないからって、別に、関係ないけど? それとも何? 晴れてるのに傘さしてるあたしが間抜けだって言いたいの?」

「いや、そんなことは思ってないし言うつもりもないが………」

「嘘! 絶対バカにしてる目じゃん。あたしには分かるんだから」


 ………俺たち目合ってないけどな。主にそっちが原因で。

 そう指摘したら怒られそうなので黙っておく。

 とりあえずオレとしては振られる前提で告白しているので早くそうしてほしい。彼女もその方が都合がいいだろうし、それで解散して一件落着だ。


「あの、告白の返事なんだが………」

「っ! ま、まさかあんた、あの、なんとかチャレンジってやつ? 真に受けてるの? 雨降らなかったからあたしと、つつ付き合えるって? 勘違いしないで。そんな訳無いでしょ?」 


 水波は一気に喋って酸素が足りないのか顔を真っ赤にしている。

 こんなに早口な彼女を見たのは初めてだ。

 と言っても、そもそも水波が誰かと会話している所自体あまり見かけないが。

 今日のやり取りだけで彼女のイメージが随分変わった気がする。個人的にはこっちの方が好感が持てるなと思った。

 まあ何はともあれ答えは出たな。

 

「じゃあオレは振られたってことで」


 そう言ってこの場を退散しようとすると、


「ちょ、ちょっと待って! 誰も振る、なんて言ってない………けど?」


 焦った様子の水波に何故か呼び止められた。

 だが確かに振られたはずだよな。

 オレの聞き間違いか?


「言った、よな。そんな訳無いって」

「それはっ! 雨が降らないから付き合えるとは思わないでって、そういう意味。………分かるでしょ?」

「………」

 

 すいません、よく分かりません。

 瞬時に理解できるほどオレは頭が良くなかったようだ。

 要するに、雨と告白の返事は別物ということだろうか。

 

「あー、つまり、オレは振られてないってことか?」

「っ、ま、まだ! まだ振ってないってこと」

「それでは答えをどうぞ」

「………なんでクイズの司会者なのよ」


 ナイスツッコミ。

 意外と冷静だな。


「どうせ答えは決まってるだろ?」

「ど、どういう意味?」

「そのままの意味なんだが」

「ふ、ふーん。忍野がそんな自信過剰なタイプだったなんて、ちょっと予想外………」

 

 何かぶつぶつ言ってるが、声が小さくてうまく聞き取れないな。


「でっ、でも残念! すぐには返事しないから! これから………そう! これからじっくり見極めてあげるから、覚悟しなよ!」

「はあ………」


 急に声を荒げ、ビシッと指を差してきて謎の宣言をする水波。

 振るのに時間をかけてどうするつもりなのか。

 思わせぶりな態度で焦らして最後に地獄に突き落とすのが楽しいみたいな、変わった趣味の持ち主なのか?

 だとしたら水波は恐ろしい悪女なのかもしれない。


「覇気のない顔しちゃって、しゃきっとしなよ。あたし今日はもう帰るから。じゃあね」

「えっ、あ………」

 

 有無を言わさずくるりと振り返った水波は扉に向かって歩き出す。

 オレはその後ろ姿をただ見守ることしかできなかった。

 やがて水波が中に入ろうとしたところで、さしていた傘が引っかかったのか「きゃっ」と可愛らしい悲鳴を上げて動きが止まる。水波は苛立たし気に後ろを確認しようとして不意にオレと目が合う。その瞬間、この距離でも分かるほどに頬を染め、じろりとオレを一睨すると、傘をたたんでそそくさと扉を閉めた。水波の姿はもう見えない。


「ぷっ、はははっ」


 オレは吹き出して笑った。

 

 水波葵は全然クールじゃないし、ミステリアスでもない。

 否、そういう一面もあるのは間違いないが、それと同時に明るくて表情豊かな可愛い女の子だった。

 これで悪女の可能性もあるとは、水波という人間は底が知れないな。

 彼女と付き合う男は大変そうだ。

 まあ振られ待ちのオレには関係ないか。

 

 そこでオレは空を見上げ、ふと思う。


 ―――結局ふられなかったな。


 と。

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