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『転生した以上、幼馴染+αと美少女ハーレムをつくってイチャラブ学園生活を送ると決心したオレ』  作者: 姜維信繁


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第75話 『辞めます騒動』

 1986年(昭和61年)5月3日(土)~5日(月)


 話は少しさかのぼって連休2日前の木曜日の放課後、練習が終了して下校時間を迎えた体育館裏。


 コンクリートの壁を拳でたたく音が響いた。


「くそっ! ったく、やってらんねえな」


 その声の主は3年の川口崇広。


 剣道部の主将だ。


 彼の顔は怒りでゆがみ、制服の第一ボタンは外され、カラーで留めてはいない。


 上着は中ランで、ズボンはいわゆるドカンズボンである。


 周囲には同じく3年のバレー部のエース、比良山信行をはじめ、数人の男子生徒が集まっていた。悠真の同級生の遠山修一(バレー部)や田中勇輝(剣道部)もいる。


 同じ小学校の小林正人も剣道部だ。


「連休中も毎朝練習だってよ。しかも9時集合じゃなくて、7時だぞ? ふざけんな!」


 川口が再び壁を殴る。


 その音に、たまたま通りかかった悠真と祐介が振り返った。


「あれ? 何やってんだ?」


 悠真は小声で祐介に尋ねた。祐介は肩をすくめる。


「さあな。でも関わらないほうがいいんじゃね?」


 祐介の言葉にうなずこうとした瞬間、川口の声が悠真に向けられた。


「おい、風間! こっち来いよ」


「いや、遠慮しておきます。では、先輩、さようなら……」


 悠真はそう言いながら、くるっと反対を向いてさっさと帰ろうとした。


 くそ不良ヤンキーの先輩には関わりたくないのだ。


 ただでさえリンチにされた過去がある。


 もっとも、翌日以降にやり返したのだが。


 しかし、その一歩を踏み出すより早く、川口の声が再び飛んできた。


「おい、待てっつってんだろ!」


「何ですか先輩、オレはあんたたちに関わりたくないんですよ。マジで。労力の無駄なんです。オレの時間を奪わないでよ」


 後悔はなかった。


 この手の連中と一度でも甘い顔をして関わってしまえば、際限なく時間と労力を、そして精神を削り取られるのを、悠真は身をもって知っていたからだ。


 あのときの屈辱と、そしてそれを乗り越えた後の解放感。


 二度と、あの泥沼に足を踏み入れるもんか。悠真は、川口から目をそらさずに、しかし一歩も引かない姿勢で立ち尽くした。


 中身は51歳のおっさんで、過去の自分を知っている。


 前世の悠真は、イジメの対象だった。


 体育用具室に連れて行かれ、分厚いマットレスに挟まれて、プロレスの練習と称して上から数人が乗っかってきたのだ。


 死ぬかもしれない。


 マジで死を意識した。


 子どもだから、なんて理由は通用しない。


 もし、あのときオレが死んでいたら、少年ABCなんだ。


 その恐怖に比べたら、ここで殴られても構わない。


 そして、絶対に100倍にして返す。


 毅然(きぜん)とした態度で、冷めた目で見たのだ。


 川口の顔が怒りで真っ赤になる。


 振り上げた拳が、悠真の鼻先にまで迫った。


 誰もが息をのむ。


 だが、悠真は微動だにしない。ただ、冷めた視線を川口に向け返すだけだ。一切の恐れを知らない、むしろ挑戦的ですらある眼光に、川口の拳がぴたりと止まった。


「っ……ちっ!」


 川口は歯を食いしばり、荒く息を吐き出すと、振り上げた拳を不自然なほどゆっくりと下ろした。


「……てめぇ、覚えてろよ」


 歯ぎしりしながら言い放つ。その声には、まだ怒りの炎がくすぶっていた。しかし、先ほどの勢いは完全に失われている。


「おい、悠真、いいのかよ? 後からやられっぞ」


「よかさ別に。やられたらやり返せばいいんだよ。前に1回やってるしな。懲りないやつらだ」


 体育館から遠ざかった祐介が悠真に聞いたが、悠真はどこ吹く風だった。


「おい! お前ら、何やってんだ! 明日も朝から練習なんだぞ。早く帰れ! 川口! 主将のお前がそんなんでどうするんだ! バレー部のことは知らんが、お前がしっかりやらんといかんだろうが!」


 部活動が終わって、最終の見回りをしていた剣道部の顧問、中尾だった。


 ジャージに着替えてはいるが、竹刀を小脇に抱えたその姿は、いかにも厳格な剣道部の顧問だ。


 顔は少し日焼けしていて、シワの刻まれた目尻が、ふだんから生徒たちに厳しく接していることを物語っている。


 不良グループはまるで潮が引くように静まりかえった。


 川口たちは不良ぶってはいるが、いわゆる校内暴力をしたり、窓ガラスを割ったりはしない。反抗的な態度を取ってはいても、結局最後には従うのだ。


「ちっ……」


 川口はもう一度小さく舌打ちをしたが、悠真に対してのような荒々しさはない。


 明らかにトーンダウンしている。


「川口! 聞いてんのか! 主将のお前がだらしないと、部全体が緩むんだぞ! この連休中、どれだけ追い込むつもりだったんだ? 何だその格好は! カラーをつけろ! 学校指定の制服があるだろうが」


 制服に関してもそうだ。


 ふだんでも小言を言われるが、公に注意されるのは服装検査や持ち物検査のときくらいである。


 ところが、タイミング悪くたむろしているところを見つかったから、余計に指摘されたのだ。


「返事は! ? やる気あんのか? ないなら今すぐ辞めてしまえ!」


「はい! 分かりました! 辞めます!」



 


 え?



 


 その場の誰もが思った感想だ。


 辞める?


「分かりました。剣道部、辞めていいならやめまーす」


 正直なところ、学校生活における部活動への参加や不参加は、協調性や我慢強さ等々、学力以外の生徒の素養を見る重要な要素だと言われていた。


 今世でもそうだ。


 しかし、高校受験にどれほどの影響があったのか?


 は・な・は・だ疑問だ。


 51脳搭載の悠真はそう思っている。


 ただ、この場の川口の発言は何の根拠もない、勢いにまかせた発言だった。


 顧問の中尾は、川口の予想外の返答に一瞬言葉を失った。


 竹刀を抱えた腕がぴくりと動く。


「な、何を言っているんだ、川口! 主将だろう! 軽々しく辞めるなどと言うな!」


 ふだん厳格な中尾が、明らかにうろたえているのが分かる。


 主将の川口の退部が部活動に与える影響を、瞬時に計算したのだろう。


「いや、だから辞めますって言ってるじゃないですか。やる気ないなら辞めろって言われたんで。今まさに、やる気、さらになくなりました~でわ!」


 川口は悪びれる様子もなく、むしろ少し楽しんでいるような口調で答えた。言い終わった川口はカバンを手に取り、帰ろうとしている。


 周囲の生徒たちはこの展開に驚きつつも、固唾を飲んで見守っていた。彼らにとって、川口が顧問にここまで反抗的な態度を取るのは初めてだからだ。


「それじゃあ先生! オレも! 辞めまーす!」


「じゃあオレも!」


 2年でレギュラーの小林正人と田中勇輝も便乗した。


 他にも剣道部はいたが、様子を見ている。残りはバレー部員だから中尾には関係ない。


「じゃあオーレもっ。せんせーまだいるかな? いないなら明日言おうっと」


 1人、また1人と退部希望者が出てくる。


 バレー部まで飛び火して、比良山信行と山内勇人も便乗してきた。


「ま、待てお前ら! よく、よーく考えろ。中学のこの時期は、やり直そうったって、できないんだぞ。……よし、分かった。ひとまず、この件は預かろう。家でご両親とも話して、明日また、いや連休の練習……。明日話そうじゃないか」


「はーい、分かりました~。でも、明日になっても変わらないと思いまーす」


 川口はそう言って体育館を後にし、他の生徒もぞろぞろと後をついて行った。



 


 次回予告 第76話 『退部届ドミノ』

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