恋人がジョブチェンジ!?
「で、新しいパッチは?」
『あとで当てるけど、まず報告を聞いてくれる?』
「了解、何があった?」
『あなたの宙域権を私が管理しているのは知っているわよね?』
「ああ、もちろん。探検家にはさっぱりだからな」
『それでね、あなたの宙域権に合わせて、肖像権とか著作権もあるわよね?』
「宙域権ってのは、開発の時にかかる全費用のなん%かを貰えるって奴だろ?」
『全費用ってことじゃないわ、発見したブロックを細かく1平方光年あたりに区切っての話よ、勘違いしないで』
「1平方光年って、なにそれ」
『良くわからないあなたに理解しやすいように適当に言っただけよ。とにかく、開発に対しての権利の他に、著作権と肖像権があるわけ』
「俺の写真が売れるのか?創作物に関わったこともないぞ」
『あなたのことを題材にしたミステリ本が爆売れしたわ。映画化もされたし、今ヒトの世ではナオキが大ブームよ』
「マジかよ......」
そんなこと、夢にも思ってなかった。
第七星系を見つけた時は親父の利権を守るのに必死 で、持て囃されるのも他人事としか思えなかった。今になって、なぜ?疑問符が、いまだ解凍しきらない脳にギチギチに詰まっていく。
『それで、権利を統括する為の会社を作ったんだけどね。それがまぁ、ウケるわウケるわで。今経済誌出すね』
目の前のビジョンに宇宙全域を扱う経済新聞が映し出された。
『1番の見出しが私たちの会社ね』
そこには“(株)NHKついに上場、株争奪戦争へ”としてあった。
「会社化も聞いてなくて驚いてるのに、NHKって大昔の国n営放送だろ?マズいんじゃねーか?」
『大丈夫、本来の表記に戻すわよ。見づらいだろうけど覚悟して』
「うげ、あれ嫌いなんだけど......」
画面が切り替わるとMRやARを駆使した立体的な新聞へと様変わりする。
この奥行きがある新聞は実に読みづらいんだが、慣れた人には読みやすいらしい。
また、立体的になることで、表現通り「文字が踊る」
「おい、これ、カオル!!」
新聞の見出しには「(株)ナオキ❤️カオル」としてある。
「おい!悪ふざけが過ぎるぞ!Hってハートマークのことかよ!」
『だって私達、恋人じゃない』
「そ、そうだけど!全宇宙にアピールする必要あるか!?」
『あるのよー。船にパッチ当てとくから次の新聞読んどいて』
「次っておい!」
次に目に飛び込んできたのはゴシップ紙。流石にこれを立体表示で見る気は無い。
「な、なんだよ、これ」
『書いてある通りよ』
トップの見出しはこうだ。
“連合トップ、ワープ航法を秘匿!?暴いたのは深宇宙の魔女!”
【宇宙連合上層部が、人類の夢であるワープ航法を秘匿しているとのことが判明した。これにより宇宙開発は更なる発展を見せるだろう。
秘匿された期間はおよそ50年を超えたと考えられており、深宇宙の魔女と呼ばれたカオル・サトウ教授を代表とする「(株)ナオキ❤️カオル」がこれを公表。
また、50年前第七星系を発見したナオキ・タナカ氏の父である故、ユウト・タナカ氏はこれを暴こうとしたところ、上層部の過激派から攻撃を受けたとの情報もある。
カオル教授に話を伺うと「全人類が享受するべき知識を解放しただけです。社名につきましては私個人の決意表明で、着いてきてくれる皆が社員です。深宇宙の魔女という二つ名を頂いておりますがそれは破棄したいと思っております」
とのこと。(株)NHKは明日上場予定。】
「め、めちゃくちゃじゃねぇか!」
『そうよ、めちゃくちゃやったのよ。でもそのおかげで、ようやくあなたに会えるわ』
「は?」
『何のために連合をひっくり返したと思ってるの?あなたを延命したのも、会社を作ったのも、し、社名をアレにしたのも?そう、みんな今日のためよ!』
カオルが宣言したと同時に、船内には聞いたことのない非常アラートが鳴り響く。
「この音は!」
リンゴーン!!リンゴーン!!リンゴーン!!
協会の鐘を爆音にしたらこうなるだろうと予想できるような、異様な警報。
『パッチを当てたと言ったでしょう!外見てなさい!』
「だから、なんの警報なんだよ!」
『察しが悪いわね!これは!』
窓の外には
『ワープ航行接近警報!!』
(株)NHKのロゴが大きく貼られた船ばかりの
『深宇宙の魔女改め、新宇宙の花嫁が迎えにきたわよ!私の花婿!』
宇宙船団がやってきた。