2人ぽっちの宇宙
「あ゛ー......」
『またゾンビごっこかしら?1人宇宙で生きる死体を演じるのってどんな気分なんでしょうね』
「カ、オル...?」
『そうよー。あら、1週間連絡しなかったら本当に1週間そのままだったのね。今動かすわ』
画面に映るカオルが何らかのジェスチャーで装置に指示を出す、途端に右腕にチクリとした刺激を感じた
『まずは点滴からね。カラッカラよ、あなた。』
1週間...?そうか、そんなに経つか。
「人間...なかなか死なないな...」
『当たり前でしょ。私が死なせませーん。私にしてみれば貴重な実験体ですし?』
「実験体はやめてくれよ、それで、どうだった?」
『相変わらずね。ワープの発展の目処もなし。データがロスなく届けば良いってさ。C-001症例も調べる価値は無いだろうって。』
「親父の!ゴホッ......親父のことをナンバーで呼ばないでやってくれ......」
『ごめんごめん、こっちじゃそれで通ってるからさー』
「悪気が無いのは知ってる、あ゛、あー。少しは喉が慣れてきたな」
『どう?いつもより効かない?新配合の点滴よ!』
「おー、すぐ喋れるようになるのは良いな」
『ただ、末端までは行き届かないから指先とかはシオシオかも。ナオキの大事なところもね!使う予定はないでしょうけど、ぷぷっ!』
「そんなんだから結婚できないんだよ、カオル教授...」
連合の代表共はロクなもんじゃないが、カオル教授を付けてくれたのだけは心から感謝できる。
彼女が開発した意識と肉体を限りなく死に近づける化合物はこの船内でも構築することができ、壊れたコールドスリープ装置の代わりを果たしてくれている。
また、今となっては時代遅れのこの船にパッチを当て続け、最新型とも引けを取らない性能にしてくれているし、国とも掛け合ってくれている。
つまりは、カオルが今の俺にとって最大にして唯一のスポンサー、という訳だ。