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第31話 闇より来たりし、終末の獣

 金属と金属がぶつかり合う激しい音が響き渡り、もう何度目かというヴァシリーの渾身の一撃がコンラッドの首を目掛け、突き出される。

 それを上体を反らし、紙一重で辛うじて避けたコンラッドは反らした身体を戻す反動を利用し、大斧を横薙ぎに振り払った。

 両者とも馬を駆けさせながら、この複雑な動きをしているのだから、あまりの見事さに周囲で戦っていた兵たちもいつしか、勇壮な若武者二人の戦いに見入っていた。


「やりますね、あなた」


 コンラッドの重たい大斧の横薙ぎを手元に戻した槍の柄部分で受け止めるとヴァシリーは薄っすらと笑みを浮かべる。

 それは命を奪い合っている者同士というより、古くからの友とただ、汗を流す模擬戦を行っているかのような爽やかなものだ。


「そういう、君もね。でも、君……迷っているね?」


 コンラッドの大斧の一撃は正確には受け止められたのではなく、弾き返されていた。

 その衝撃にコンラッドが反動でややバランスを崩すとそこを逃さず、顔を目掛け、槍の穂先が突き出された。

 避けようがないと思われた一撃だが、なんとコンラッドは顔の寸前で止めて見せた。

 見切ったかのように穂先が寸前で止まるように手で逆輪の部分を掴んだのである。


「君に迷いがなかったら、私はとうに負けていますよ。君、魔法が使えるのに使ってませんよね?」




 同じ頃、上空から一人と一匹が生温かく見守っているとも知らず、対峙する二人の英雄。


「お嬢ちゃんはここでおとなしく、していてくれ。あぶねーからな」


 フェリックは馬から、アーデルハイトを降ろし、蛇矛(シュランゲ)を構え、闘志に燃えた瞳でゆっくりとユーリウスに向き直った。


「フェルさん、無理はダメですよ。その腕もまだ、完治してないんですから」


 フェリックを見つめるアーデルハイトの瞳には憂いの色が窺える。


「漢にはやらにゃいけねー時があるのさ。何、すぐに終わるって。ちょいと待っていてくれ」


 馬の腹を蹴り、勢いよく駆け出したフェリックが蛇矛(シュランゲ)をユーリウスの胸元目掛け、突きを繰り出す。

 その突きには迷いが一切ないきれいな軌道を描いて、一直線に突き進む。


 ユーリウスは青竜斧槍(ブラオドラッヘクーゼ)の柄でそれを弾き返すという信じられない精度の動きを見せる。

 さらに弾き返され、ややバランスを崩したフェリックへと追い打ちをかけるように青竜斧槍(ブラオドラッヘクーゼ)を上段から、首筋を狙って袈裟懸けに斬りかかる。


「兄者、迷いがあるな」


 フェリックはその一撃を石突の部分で受け止め、不敵な笑みを見せる。


「お前には不思議と迷いがないな」


 馬を横付けし、互いの得物をぶつけ合い、交わしながら、視線を激しく交差する二人だが、不思議なことにまるでただ、力を測り合う試技のようであった。


「あの二人は大丈夫そうだ」

「そのようですね。ではこのまま、本陣へ?」

「ああ、そうだな。コルベール卿を拾うとしようか」

「お任せください、我が主(マイ・ロード)


 眼下で激しいやり取りを繰り広げる二人の英雄を他所に真紅の飛竜はコルベール軍の本陣へと向けて、飛び去るのだった。




 ブロームが右側から、槍を鋭く突き出すがベーオウルフは右手に構えた長剣で軽く払い除けた。

 ブロームの動きに合わせるように左側から、斬り上げたリーンハルトのグレイブも左手の長剣で払い除ける。

 眉間を狙って、飛来してきた矢も上体を反らすことで避けたベーオウルフは僅かに口角を上げ、邪な笑みを浮かべる。


「なんて動きするのよ」


 ベーオウルフの動きについていけないエレミアは誰ともなく、そう呟いてしまう。

 先程から、シュテルンが牽制するように矢を射かけているのにそれすら、軽くいなしているのだ。


「下郎どもがっ! 生意気なんだよ、くそっ」


 ベーオウルフは懐から、毒々しい色をした液体が入った薬瓶を取り出すとそれを一気に飲み干した。


「俺を怒らせたのが悪いんだ。さあ! 我を崇めよ! 跪くがいい!!」


 ベーオウルフの全身を激しく、燃え上がる青白い炎が覆い尽くすとその身体が奇妙な変化を遂げていく。

 口が耳まで裂け、犬歯が鋭く、長く、伸びていくのと同時に瞳が金色に輝き出した。

 爪もまた、鋭く長く伸び、腕の筋肉が異常なほど膨れ上がり、巨大化していく。

 それは腕だけでない。

 ベーオウルフの全身が膨張するかのように大きくなっていたのだ。

 自らが乗っていた馬の首をその爪で一瞬のうちに切り落とすとその血を啜る姿はまさに化け物以外の何者でもなかった。


「な、なんですか、あれ!?」

「化け物だろうよ!」


 常識破りのことばかりを行う主君で慣れていたとはいえ、目の前で人が人ならざる者になるのを直に見てしまったリーンハルトは動揺を隠せない。


 ブロームは落ち着いた様子を見せていた。

 まだ、少年のリーンハルトに比べ、数多の戦場を経験してきた歴戦の勇士である。

 とはいえ、実は態度こそ、落ち着き払って見えていただけで正真正銘の化け物を相手にどう立ち向かえばいいのか。

 はっきりした答えを見いだせていなかったのだ。

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