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第13話 日和る鬼神

「なるほど、閣下の狙いはよう分かりましたぞ。では我がオルロープ家に何をお求めなのでしょうな? 閣下」


 そんなのセレナ姫に決まっているじゃないですか!

 娘さんをください!!

 ……とは言えないな。

 辛い!

 推しは見守りたいのだよ。

 推したいのだよ。


 それに姫のこと以外でオルロープ卿に頼みたいこともあるのだ。

 背に腹は代えられぬ、か。


 キアフレード。

 フレデリクに最期まで従った稀代の謀臣だ。

 天下に名だたる智謀の士であり、ゲームでも能力はトップクラスだった。

 数々の献策をするキアフレードだったが、フレデリクがそれを取り上げることはない。

 実際、キアフレードの立てた作戦通りに進めていれば、負けることもなく、フレデリクが破滅することもなかったんだから、やるせないものがある。

 フレデリクの死後、捕らえられたキアフレードは一切の弁明もせず、処刑場の露と消えたのだ。


 俺は先生を何としても助けたい。

 先生。

 そう、俺はキアフレードのことをキアフレード先生と呼んでいた。

 ゲームでは二人の関係が師匠と弟子……違うか。

 野球部の顧問とエースピッチャーのように見えたからだ。

 口が少々、悪いもののフレデリクのことを真摯に考えてくれる人だからなぁ。


「卿。それではキアフレード殿はもう貴家においでなのでしょうか?」

「ほお。キアフレード殿のことを御存知なのか。確かにあの者は今、我が屋敷に逗留しておりますが……」

「なんと、キアフレード先生はもうおいででしたか! 是非、お会いして、御挨拶をしたく思いまして」

「しかし、閣下。あの者は当代きっての切れ者ではございますが……その性格に少々……いえ、かなり難がございましてな。歯に衣着せぬ物言いをするので衝突が絶えん男でしてな」


 分かる!

 そうなんだよ、キアフレード先生は優しい人なんだが、オブラートに包んだ言い方の出来ない人なんだ。

 答えが出ない命題を前に悩んでいると『お前、なぜ、それが分からないんだ。ちょっと貸してみろ。全く、これだから愚か者は困るな』を無意識で言ってしまう人。

 それが先生なんだ。

 おっさんのツンデレなんて、誰得なんだよ。


「そのような些事、気にしません。本日、お会いするのは失礼でしょうから、後日でも構いません」

「いやはや、閣下は本当に噂とは違うお人のようですな。では後日、セッティング致しましょう。ただ、閣下はそれだけがお望みではございませんな?」


 ギクッ! バレているのではないか?

 娘さんをください! が顔に出ていたのか?

 オルロープ卿の目が冗談を許さない本気の目をしているんだが……。


「は、はあ。しかし、それを申し上げると卿がご気分を損なわれるかと思いまして」

「内容を聞いてみませんとそれは分かりませんな」


 よし、俺も男だ。

 覚悟を決めて、言おうじゃないか。


「分かりました。俺を貴家の姫君セレスティーヌ様に……」


 緊張のあまり、自分の唾を飲み込む音がえらく、生々しく大きく聞こえる。


「騎士として仕えることをお許しください!」


 『ふぇ!?』という何か、かわいらしいんだが、気が抜けるような悲鳴とパタンと何かが倒れるような音が聞こえ、屋敷の中が急に騒然としたようだ。

 『大変です! お嬢さまが()()、倒れました』『すぐにお部屋の方に』という女性の声が聞こえたんだが?


 もしかして、セレナ姫が俺たちの話を聞いてた!?

 やっぱり、セレナ姫を俺にくださいと言うべきだったんだろうか?

 いや、まだ、親しくなっている訳でもないのにもっとこう、段階を踏んでからじゃないと駄目だよな。

 決して、日和った訳ではない……ごめん、日和ったわ。



 結果として、オルロープ卿は俺の騎士になりたい発言に目を見開いたまま、数秒は硬直していた。

 現実に復帰したオルロープ卿は快諾してくれたが、受けるかどうかはセレナ姫本人の意思を尊重したいようだ。

 本当、いい人だよなぁ、オルロープ卿。

 問題はちょっと頭が固いせいで融通が利かないことか。

 だから、ド・プロット軍の残党に殺されちゃうんだよな。

 まあ、クカリは俺が殺っておいたから、要因の一つは減ったはずだ。

 いわゆる死亡フラグから、多少は遠のいたと思うんだ。




 さて、問題はここからか。

 卿と一緒にシュテルンくんが上手に処理してくれた間者を引見中なのだ。

 例の天井裏に潜んでいた間者だ。

 俺とオルロープ卿の話の最中にシュテルンくんに簡単に意識を刈り取られた少々、お間抜けな間者なのだが……思ったよりも若いな。


 若いと言うよりはまだ、十代半ばくらいではないだろうか?

 夕焼けのような色をした髪を肩の辺りで切り揃え、大きな目に輝く瞳の色は深い森林のように濃い緑色をしている。

 きれいというよりは愛らしい顔立ちの少女のようだ。

 体のラインがはっきり分かる薄手の黒い装束を纏っているから、出ているところが出ていて、引っ込んでいるところが引っ込んでいる。

 そのプロポーションの良さに少々、目のやり場に困るな。


「君は獣人か? どこの一族かな?」


 人間にはない頭頂部付近から、垂れ下がっている大きなふさふさとした毛の生えた耳。

 触ると気持ちが良さそうだ。

 耳の形状からするとうさぎ系の獣人だと思うんだが。


「あちしはエマニエスだよ……草奔族(ステップランナー)のエマニエス」


 うさぎさんで合っていたようだ。

 さて、この娘をどうしようか?

 シュテルンくんたちエルフの扱いでも分かるがエルフやドワーフだけでなく、獣人も亜人と蔑まれているんだよな。

 この娘も正当な評価を受けて、間者として動いている訳じゃないだろう。


「君はこのまま帰りたいかな? 帰っても始末されるだけだと思うんだがね」

「それが影の役目。あちしは影の務めを果たすまで」

「君さ。帰らないで俺のところで働かないか? 三食昼寝付き高給を約束するよ」


 オルロープ卿が『ほお』と心底、感心するように俺を見つめてくるのが、こそばゆい。

 逆にシュテルンくんは『こいつ、きもっ』っていう冷たい目を送ってくるのだが俺が何をしたというのかな?

 スタイルがいいうさぎさんだから、バニーガールにしたいなんて、思ってないぞ?

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