8月22日
夏です! 北村君が社員旅行の企画で張り切っています。
行き先は北海道久遠郡せたな町。
北村君作成のしおりには『新矢旅館で味わう北の大地、海の幸・山の幸プラン!』の文字。
これは楽しみです。
その下に小さく『知る人ぞ知るパワースポット、太田山神社参拝もあるよ』とあります。
ほほう、太田山というわりには、海に面したこれがそうですか……。知る人ぞ知るパワースポットにしては、ずいぶんとこじんま……
「先輩、それは太田神社です。太田山神社はこっちの鳥居から登るんですよ」
うん。何となく気づいてた。気づいてたけど、目的地はこっちの太田神社にしてほしかった。
だって、鳥居の方が傾いてるんじゃない? と言いたくなるほど急勾配の階段なんて登りたくないもの。
「それじゃぁ皆さん、注意事項です。目的地の太田山神社はこの鳥居から登った山の中腹にあります。標高は400mですが道のりは705mですのでそれほど大変じゃありません」
あーくたんじぇんと400わる705にありぃいこーる30ど。
うん平均傾斜30度。さいん30どいこーる2ぶんの1、つまり体重の半分の重さが背中にかかるところは言いません。705mという数字で安心させておいて、核心部分は言わない。北村君は企画じゃなく営業に、いいえ政治家になるべきです。
「途中マムシやブヨ、アブなどが出ますので注意してください。ヒグマもいます」
りーありぃ?
なんでも無いようにさらっと言ってますがどよめきが起きます。
「それじゃぁ出発します。皆さん準備はいいですか? 特に生命保険の。」
なぜ生命保険がいる?
ふぅ……ふぅ……。
傾斜45度はあろうかという石段……。手すりと縄が用意されているので存分に活用させていただきます。
だって、足を踏み外そうものなら、一気に“ふりだし”まで戻ってしまいます。そう、東京まで、つまり病院まで。
ふぅ、石段が終わりました。ですがまだ、山道が続きますが、これまた険しい。
途中、女人堂なるものがあって『女はここで帰れ』と言っていますが、みんな「ここまで来て帰られるか!」と意地を張って先に進みます。
うん、変な所にジェンダーフリー?
本当は、もうここでいいんじゃね? みんな帰ろうぜ、と言いかけたのに打ち消されてしまいました。
とぅるるる~
マムシがあらわれた!
アブのむれがあらわれた!
きたむらのこうげき!
まむしをおいはらった!
さいとうのこうげき!
あぶのむれをおいはらった!
もんすたーのむれをたおした!
けいけんちを5てにいれた!
意外と男性陣は頼りになるようです。
続けて……崖に張り付いた橋?
うん崖の反対側を覗き込むと谷底がウェルカ~ム!
こんなことで負けてはいられません。
先に進みます。
「皆さん! よくここまでたどり着きました。ここから最後の難関です」
え、此処でゴールだと言ってよ。北村君。
だって、此処から先に道はないんだよ? あるのは鎖が垂れてる石の壁ですよ?
「何を言っているんですか、先輩。ここを登るんですよ。鎖を使って」
オーケー。北村君。
初対面の鎖君に命を預けろっていうのかい?
「大丈夫です。この鎖だけではなく、今まで通ってきた道はみんな、地元の方が整備してくださっているのですから手入れは行き届いているんです」
そうなのか。それなら安心だなぁ……。いっそ、十数年ほったらかされていて使い物にならない方が、帰ろうぜ~って言えたのに……。
ひぃ。
覚悟を決めて登ったものの、なかなか前に進めません。
ふぅ、なんとか本堂にたどり着きました。
おお、此処から眺める日本海、奥尻島は絶景ですね。ここまで来た甲斐があったというものです。
さて、本堂にお参りして、斉藤君を奉納して、さっき通った道を戻……るのか……。