2月14日
「斎藤君、今夜一杯どうかね?」
「いいんですか? お供いたします」
「今日は斎藤先輩か……。僕も昨日連れて行ってもらったんですよ」
と、語る北村君。その前は私です。そう、2月に入ってから課長は毎晩部下を誘って飲みに行きます。
「ニハチだというのに、よく持ちますね」
説明しよう。ニハチとは二月と八月のことで、正月と盆の後なのでお金がないと世間一般で言われている時期です。
「しかし、何でまた急におごるようになったんでしょうね?」
ふふふ、北村君。まだまだ君も甘いですね。私にはその理由が分かっています。
そう、何を隠そう1月末フジサンケイビジネスIに掲載された『人材育成マイスター』の記事。
某会社で全社員に『一番部下を育てることに長けた上司はだれか?』を投票し、高得点をはじき出した者に人材育成マイスターの称号を与えるというもの。
社内でそんな称号を得れば、出世や昇給に影響を与えるのは至極当然。
そしてうちの社長の性格を考えると、投票を行うのは必至。
うちの課長がその称号を狙うのも、必死。
にも関わらず、社長は鳴りをひそめています。
フリーアドレスをいいことにいっそ社長に直訴してみましょう。
「『人材育成マイスター』? 何それ?」
おう、これは想定GUY。
どうやら社長はフジサンKビジネスアイを読んでいないようです。
実施されるのは面倒なので黙っておきましょう。
課長の財布が尽きるまでおごってもらいたいので……。
あれ?
斉藤君が……。