5月10日
部長が退職することになりました。
おや? 変なルビが……。
気にせず話を進めましょう。
今日は最後の出勤日。みんなで見送りです。例え嫌われ者でも……。
ああ、既に集まっていますね。私は最後に花束を上げる役ですので準備に手間取ってしまいました。
まずは社長の挨拶です。
「橋屋部長は我が社にとって必要な人材ではありましたが、この度勇退をされることになりました。本当であるならばもっと活躍して頂きたかったのですが……」
嘘もあそこまで平気で言えるのは才能でしょうか? 真っ先に不要な者として切り捨てておきながら……私も気をつけることにしましょう。
続いて部長からの一言。
「え~、本来ならば、もっともっと会社のために力を尽くしていたかったのですが、どうしてもやって頂きたいことがある! とのオファーを断り切れず、子会社ではありますが新しい会社が設立されることになり、そちらに行くことになりました」
わざわざ彼のために会社を作るとは……会長も中々やりますね。まぁ、彼が社長で他には事務の女の子1名の何するか分からない会社ですが……。
本当に何するんだろう?
税金対策の幽霊会社ではないかと不安に駆られます。
さて、いよいよ私の出番です。みんな盛大な拍手をしておりますが、演技力抜群ですね。
「ありがとう、こんな僕にも花束を頂いて去っていく日が来るとは……」
「まぁ、慣例ですから」
あ、拍手が止まって場が凍り付きました。
社長も苦笑い。
部長も微妙な表情で階段を降りていきました。
ん~……これはおとがめがあるかもしれません。
その場合は斉藤君に乗って逃げることにしましょう。
後日談
特に何もありませんでした。みんなの思いは一つだったようです。ふぅ。
え? 何故これほど彼が嫌われているのかですって。それを語るにはとても一回では足りませんのでおいおい語っていくことにしましょう。