3月29日
「アンドロガノフ六世が生まれたんですよ」
それは良いことです。子孫繁栄は動物の本能でもあり使命でもあります。
宮島さんは満面の笑みで私に六世を見せてくれました。
わー! とても可愛いです!
白くモコモコした毛と三日月のように細い瞳、そして何よりくるんと丸くなった角!?
私も長年生きてきましたが初めて知りました。
シェパードってメリノー種を生むんですね。
うそです。生むはずがありません。
しかし、目の前の六世は……。
「いや、養子なんですけどね。将棋仲間が牧場を営んでいるのですが一匹引き取ってくれないかと頼まれましてね。いや、こういうことを断れない性格なもので」
照れている場合ではありません。都会のど真ん中、ワンルームマンションでひつじが飼えるものなのでしょうか?
頼む方も頼む方ですが、引き受ける方もどうかしていると声を大にして訴えたいものです。
それにしても五世、あんた去勢されているのに他所様の子を育てるなんて……。
さて、うちの斉藤君ですが養子をもらうつもりはありません。その前に奥さんをもらうべきでしょう。
そんなことは断じてさせません!
私が未婚なのに、許されない悪行です。
奥さんをもらいたいなら実力で見つけるべきです。
というわけで不忍池にでも放してあげましょう。