2月1日
今私がいる場所は無限の剣製《アンリミテッド・ブレード・ワークス》ならぬ無限の駒製《アンリミテッド・ピース・ワークス》
廊下でただ一言「刀だけではなく将棋もご趣味なのですね」と聞いただけなのに、気がつけば宮島宅の居間で正座。
まぁ、私も小さい頃、父と将棋をしましたからルールを知らないわけではありません。
少し相手して帰ろうと思っていたのですが……
ホワイ?
私の知識が確かなら将棋盤は9×9マス。
目の前にあるのは12×12マスの盤。
銅将? 鳳凰? こんな駒知りません。
あ~子どもの頃やりましたよ。将棋をするのに飽きてきた頃に「俺、ちょっとこんな新しい駒作ってみた!」みたいなの考えましたよ。銅将なんてその典型ですね。
まさか宮島さんがそんなことをするなんて……大の大人が……。
そう宮島宅の前にある看板『中将棋愛好会会場』。
中野将棋愛好会の略か、野が抜けているのかと思ったら……中将棋とかいう普通とは違う将棋のことのようです。
「いやぁ、あまり有名じゃないから、指せる人がいなくてね」
スイマセン。私も指せる人ではありません。
今、駒の動きを示した紙とにらめっこです。
何ですか、この獅子って駒。王将の動きを二回? 相手の駒を取った後に元の位置に戻れるなんて反則でしょう?
飛車どころか龍王が最初から二枚ずつあるなんて、俺Tueeee!の極みですね。
そんなことよりも私が大好きな桂馬はどこですか。桂馬は。
あんなひねくれた動きをする桂馬こそLOVE!
桂馬がいないくらいなら王将がいない方がマシってもんです。
あ、金将が成ったら飛車なんですね。そうそう、子どもの頃に金将が成れないなんて納得できなかったのですが、どうやらこの中将棋が解決してくれたようです。
「だいぶルールを理解してくれたみたいで嬉しいですよ」
ルールを知っただけで相手できるなら苦労はしません。
まぁトリノオリンピックの時チーム青森が活躍しているのを見て、カーリングのルールを覚えただけで監督気取りのにわかはたくさんいましたけどね。
それよりも、あそこに置いてある対局途中とおぼしき盤は何でしょう?
「あれですか? 中将棋は指せる人が少ないのですが、見つけたと思っても遠くに住んでいたりするんですよ。
それでハガキで一手ずつ送りあって指すんですけど、あれはその対局途中のものです」
このネット社会でハガキ……メールですればいいのに……という言葉は飲み込んだ私偉い。ホメテ。
「しかし、今まではすぐに返事が返ってきたのに、もう半年も音沙汰がないんです。相手も歳が歳ですから何かあったのではと……」
それは多分飽きたか、別の対戦者とメールでやってますよ。それか郵便事故。
「でもあのままにしているんです。今は病気で入院しているかもしれない。しかしきっと元気になって次の一手を送ってくると信じて」
ちょっといい話ですね……。
は! 危なかったです。これはきっと宮島さんの作戦。私を感動させて、この世界に引きずり込ませようとする罠!
こんな訳の分からない将棋、はまる気はありません。
そうだ、斉藤君に相手させましょう。
彼ならきっと良い棋士になれるでしょう。
ああ、でも彼だとどちらかというと駒のほうな気がします。
って、さすがに亀なんて駒はないですね。
「ありますよ。大局将棋という36×36マスの盤の将棋に小亀と大亀という駒が」
なんか一辺が1mはありそうな変な将棋盤持ってきた!
「駒の種類が209種類もあるので覚えるのも大変ですが、やってみると面白いですよ」
にひゃくきう……。
「対戦に数日かかるのが難点ですが」
いえ、かかりません。開始五秒で後手私の投了です。
今回登場する将棋は全て実在します。
特に中将棋の競技人口は海外を中心に増加中だとか。
フリーソフトもありますので、興味を持たれた方は遊んでみてはいかがでしょうか?