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Vol1 新たな世界

帝国とはなにか?

 古代ではアッシリアが世界帝国を作り上げ、人類史的な意味に於いて初めて支配と隷属が民族によって分けられた。逆に最後の帝国と言えば二次大戦に敗れ去った枢軸と植民地独立を許してしまった英仏となるだろう。彼らは自由主義という大きな波を乗り越えられなかった。

 中世や近世においても様々な帝国は乱立した。だがしかし、今日栄華を極めるのは近代論な意味でのナショナリズム国家だ。アメリカですら多民族国家としてのナショナリズムを体系しているのだから、帝国というのはかつての夢や幻だったのだろう。SF作品では地球連邦政府なんてものが未来の姿として写し出されるが、民族的に人類が平等で、資本主義的な立場が唯一の差別であるその世界は帝国と呼ぶにふさわしくない。





     地球で帝国という概念は死んだ。





 気が付くと薄い毛布の様なものに体が覆われていた。明らかに大きな世界、小さな体。すぐに私が生まれ変わったのだと理解した。やはり日頃ネットに娯楽を求めたせいだろう、科学の理解を超越した現象も神かなにかのせいだと納得できる。現代日本の新たな信仰とすらいえるな...


 赤子用のベットから見る部屋は西欧を思わせるものだが、およそ現代に通ずる文明の利器を見つけられない。


 ああ、テンプレだ。どうせ中世ヨーロッパに酷似した異世界だろう。きっと支配体制は神聖ローマ風で領邦が強い権限をもつ分権国家で、正史で言うなれば十字軍前の貴族に優しく平民に厳しい世界なんだろうな。異世界モノ好きの俺が感じるんだ、間違いはない。


 そういえばなぜ死んだのか覚えていない。トラックや過労死が常識だが、悲惨で無い事を願うばかりだ。

 チートがあるのかはまだわからないが、少なくとも知識無双はしたいところだ。だが、あまり期待できるものもない...社会人時代の知識は全く使えないし、大学も専攻が経済で特にケインズ派に属する教授の授業ばかり取っていたから、中世で使える知識は限られる。


 だが、高校時代はどうだ?文理で最後まで迷った挙げ句、苦手な理系科目を受けつつ文系科目に主軸を置くという暴挙にでたおかげで基礎知識は共に備えている。天恵だ。中世の文明じゃあこれで十分だ。


 あれこれ考えている内に人が来た。メイドなのだろう、若い女性がこちらに向かってくる。「坊っちゃんはいつもお利口であられます。旦那様、ご子息がお待ちですよ」旦那様?これは当たりじゃないか!

「おぉ!愛しのわが子よ...!公務や軍役で館を離れて久しかったが、それも生まれたわが子を思い耐えられた。まさに我が家の天使だ...」

「全く、念願の男子だと言うのに、この時期に仕事を開けられない父親がありますか?」


ドアから上品な感じを漂わせる婦人が入ってきた。口ぶりからして母親だろう。揃って美形だ、これは自分の将来に期待がもてるな。


「念願といっても、前は...その...流産、だったからな」

「誰が悪いという訳ではありませんわ。それに今は生まれてきた子を愛でるのが親の仕事というものでしょう?」

「あ、ああ!せっかくの男児だ、我が持てる全ての力で立派な貴族にしてやろう!」


貴族、貴族といったのか!これは当たりも当たりの大当たりじゃないか。常識的な人生を送ろうとすれば地位と不労所得という盾がある最強職だぞ!


「あら?この子笑ってるわ。きっとお父様に会えたのがうれしいのよ?」




 「あなた、この子の名前はもう決めまして?公務優先とはいえ、こればっかりは忘れてはいけませんよ?」

「私はそこまで愚かにみえるのか...?まぁいい、もちろん決めているとも。」


この機会に家名も判明することだろう。まぁ、この世界のなにも知らない私が知ったところで意味は無いか...


「この子はヴェルムス。ヴェルムス・フォン・ノーザンだ。」


「ノーザン侯領を背負うにふさわしい名前ですわね。でも、私のマリアや貴方のタランからは取らなかったのね。」

「この子はこの子だからな。生まれには関係なくその才を発揮してほしいんだ。あと、反抗期が来たら怖くない??」

「...ハァ」




 どれほどの月日かはわからない。ただ言えるのは、ハイハイとうめくような声が出せるようになったということだ。思ったよりも屋敷は広くない。流石に宮殿や城といった様子ではなかった。でも現代的な基準で言えば大豪邸やら地主の家など軽く捻り潰せる大きさだ。


 やはり移動が可能になったのだ、知識の源泉たる本は読まねばなるまい。幼少のうちから数年のリードをしておけば優秀な学校にも入れよう。

 書斎を探し当てると何やらメイドが掃除の最中であったらしい。物欲しそうに手を動かしていると、メイドが私をじっと見たあと何やらキョロキョロして本を手に取った。


「字が読めるわけでもないのに坊ちゃまは好奇心がお有りなんでしょうね。将来は学者様も兼ねられるのかしら?」


おいおい、情報媒体が限りなく少ない時代だ。文字が読めるなら誰だってそうするだろう、思っていた以上に身分の格差が激しいのか?

 まぁ都合の良いことだ。自分が優秀であればいいが、支配される側が無能で従順であるならそれに勝る統治要素はない。知は力だ。

 

 書斎にある本はやはり読めなかった。が、挿絵等を見るに魔法系の本や歴史書、伝説などが著された本が中心のようで、経典や哲学書の類は理解できる範囲では少なかった。カルト的な宗教が実権を握った中世のような世界ではいつ異端になるかわかったものではないからな。これはいい傾向かもしれない。

 パラパラと音を立てている傍らメイドの話を聞いていたが、どうやらこの書斎は規模がデカく、その割に本というものはあまり使われないものなのだそう。


「ご領主様も見栄えや収集癖のためにこんなに高価な本を集めて...維持にも気をつかいましてよ?」

そんな愚痴が聞こえる。




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