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静かな台風

作者: 宇佐田 玉緒

日常のすぐ隣にある恋愛の形。行動するもしないも自分次第。流される事を選択するのも一つだ。あなたは、どんなストーリーが好きですか。

こんなに他人に惹かられる日が来るなんてと、自分でも驚いている。

付き合ってもらえる様になった今でも、信じられない。

俺は冷めているなど人から言われて来て、それは自分でも理解していた。元カノと別れた理由も、自分から連絡をしない事を責められ面倒くさくなったからだ。そんな俺が自分でも驚くほどのめり込んでいる。

大学卒業間近の今、新しい感情を手に入れたようだった。


一言でいえば、彼女は変わっている。

彼女の名前は、マコト。

初めて彼女に興味を持ったきっかけは、行きつけのコーヒーショップで隣の席に偶然座った時だった。同じ時間に利用する事は多々あったのだろうが、隣に座ったのは初めてだった。

人の会話を盗み聞きする趣味なんてないが、彼女達の会話は心地良かった。

テンションが高いとうるさいと感じ、態度が悪いと鬱陶しいと感じる。でも、彼女達は静かに楽しそうだった。

「暑いぃ…イライラして死んじゃうぅ。」「え、菜々子ちゃん死ぬの。」「いや、死なない。生きる。」「生きて。」

テンポ良く淡々と話たり、真顔で冗談を言ったりと俺が思う女の人っぽくない印象だった。ヒステリックになったりせず、愚痴も普通の話も楽しそうにする姿が見ていて楽しかった。

ある話題でマコトが悩みを話している時だった。マコトの正面に座っている菜々子が真剣に聞いているが、俺にはオチが見えないでいた。

「空気の読める人になりたい。」

マコトは、ある男性と仲良くなりご飯へ行った。背も高く、黒髪で、清潔感のあるマコトの好きな見た目をしてた。男性もマコトに少なからず好意を寄せている様な話ぶりだ。

「見た目より若く見えるね。って言われて」

社交辞令だとしても好意を寄せている相手から言われたら嬉しいものだ。片思いで好きの気持ちが溢れている時は、何を言われても最高の気分だろう。

そして、何度かデートをした時に気がついた。

「2回目に合った時も、3回目に合った時も、若く見えるね。って」

少し考えればわかったかもしれなのに、この人は私との会話の内容を覚えてないのかなと思軽く考えてしまったと。仕事の忙しい人だから、誰とどんな話をしたかなんて覚えてないかと簡単に思ったのだ。でも、同じ話を何回もされれば気がつくだろう。

「全然気づかんかった。」

マコトは気がつけなかった事を悔いていたが、菜々子も横で盗み聞きしている俺も何に悔いているのかわからなかった。

同じ話をされても、話題がなく無言の時間が嫌なのかなと思っていたそうだ。そして、その男性の次のセリフが「俺も年齢より若く見えるって言われるよ」だったのだ。

ここで男性の言われたいであろうセリフ「そうですね。若く見えます。」と言えば良かったのだが、マコトは気づかなかった。男性の言われたいであろう言葉を思いもしなかったのだ。そして素直に思った感想を言ってしまった。

「え、それ誰に言われたんですか。仕事の人とか知り合いの人だったら社交辞令ですよ。本音の言い合える友達に言われたんなら別ですけど。私から見たら年相応ですよ。って」

留めを差しに行っているセリフだが、その時のマコトは真剣だった。男の人で若く見える事を嬉しく思う人もいるかもしれないが、マコトは若く見えるイコール貫禄がないとか舐められて見えるなどマイナス面を考慮しての事だった。

「…まぁ、でも年相応だったんだよね。しょうがない」

聞いていた菜々子は、嘘は良くないしと言いながら笑いを堪えている。

「その時は、間違った事言ってないと思ったんだけど」

何回も同じ話をされたときに気づけていたら、最低でもその男性が自分で言い出したときに空気が読めていたら、こんな事にはならなかったかもしれない。

「〇〇さんも若く見えますね。って言って欲しかったんだね」

ただそう言って欲しかっただけなのに、傷痕に塩を塗る行為をしてしまった。それを横で聞いていた俺も腹を抱えて笑いたかった。なんて面白い人だ。

この人の事をもっと知りたい。そんな感情が芽生えていた。失礼な人だとか、空気が読めない人だなんて思わなかった。

エスパーでもあるまいし、他人が何を考えてるかなんてわからない。何を言って欲しいかなんてわからない。逆に、心地いいセリフだけ言われたり、して欲しい事を先回りしてされたら気持ち悪い。そう考えてしまうのは俺だけだろうか。

「その人とは、もう会ってないの?」

菜々子の疑問にドキリとした。見た目はマコトの好みにピッタリの男性。そんな簡単に切れるものだろうか。今も好きなんだろうか。

「もう会わないかな。」「向こうは気にしてないんじゃない?」「その事だけじゃないんだよねぇ。」

今まで気づかないようにしていたが、冷静に考えるとおかしい事が多々あったようだ。「マコトちゃんコレ好きだよね」とか「マコトちゃん〇〇だよね」と言われる事があったようだ。その度に、それ誰の話?って思う事があった。何かと決めつけてくるのに、的を得てない。誰かと勘違いして話しているような感覚だ。マコト以外にも食事を行くような仲の良い彼女候補達がいて、その人達との会話が混ざっているのかもしれないと思うようになってしまった。確認したわけじゃない。なぜそうしなかったかは、その人に熱烈な興味が無くなったからだった。

「じゃあ、しょーがないね。」「ね。」「…ぷっ」「…くくっ」

真顔を保っていた2人だが、耐えれなくなったのかクスクス笑い出した。笑いのツボが同じ所も、気が合うのだろう。

俺は自然と可愛い人だなと思っていた。愚痴なのに楽しそうだからだろうか。

「菜々子ちゃんの彼氏は?」

「元、彼氏ですー。」

「マサくんもクソ野郎だったね。知ってたけど。散々注意してたけど、私の声は届かなかったな。」

菜々子の元彼であるマサくんと呼ばれていた人物の話になった。この人も癖のある人だったらしい。元彼は自称「自立した女が好き」。事あるごとに言っていた。そんなマサくんに夢中だった菜々子は、付き合っているときにはその意味が解っていなかった。

菜々子はマサくんの家に3日くらい泊まる日があった。仕事がある日に朝起きてトースト食べてコーヒー飲んでいたら、慌てて起きてきたマサくんが「なんで起こしてくれなかったんだよ!」と怒鳴られて呆気にとられた話をしている。

「なんで一人で起きれないの?目覚まし時計あんのに」

自立した女が好きなのに自分は自立してない。

「コーヒー入れようか?って言っても時間がないって言って不機嫌そうでさ」

「だから言ったじゃん。マサくんの自立してる女ってのは、俺の金を当てにして生活してない女って事なんだって。」

マコトの言い分はこうだ。菜々子の元彼マサくんは、自分で稼いだお金は自分のもの。自立してる女って言い変えたのは、プライドからだろうと想像したのだ。

まぁ、それだけではない。甘やかしてしまう菜々子に彼氏が甘えてしまう現象は、度々あるそうだ。それが行き過ぎてしまうと拗れてしまって別れると言う流れができてしまう。

「だから言ったじゃん。クソ野郎製造機。」

「しれっとディスられてるんだけど。全く反論できない。」

「目覚まし時計扱いされて嫌になったんでしょ。そのうちオカン扱い受けて、女として見れないって言われて別れるんだから」

「それは前の話ですー」

「今もあんまり変わらないのが悲しい。」

「みなまで言うな。」

「だね。はははっ」

選ぶ男の趣味はどうあれ、意外に2人ともしっかりしていいそうだ。話を聞く限り、変に擦れてないように感じる。

マコトは冷静沈着で、内面を人に見せる事を嫌がる傾向にある。好きな人にもある程度距離がある方が好き。そして、鈍感なクセに友達の事なら細かいところまで気がつく。

菜々子は恋愛体質で、尽くすタイプ。相手がそれに甘え過ぎて自分勝手にわがまま放題になると拗れて別れてしまうダメンズ製造機になってしまう。

「あ、時間だよ。」「ほんとだ。」「マコちゃんそれ一緒に片付けてくる。」「ありがとう。」

さっさと片付けて行ってしまった後姿を見つめて、声をかけそびれたなと少し後悔していた。次はいつ来るだろう。そんな事を考えながら、次に会ったときになんて声をかけようかとシミュレーションしている自分がいる。

その後、2週間経っても会うことはなかった。毎日来ている俺と違って、気になっている想い人は社会人。

「失敗したかなぁ」

あの時、声をかけとけば良かったのかなと後悔していた。あの日は土曜の午後3時だった。大学生の俺とは時間の使い方が違う事を考えても、あの日はたまたまここを利用しただけでいつもは違うカフェを利用しているのだろうか。誰に相談するわけでもなく悶々としていた。

出会ったあの日から1ヶ月経ったある日、いつものようにコーヒーショップへ出かけた。その日は近くでイベントでもあるのか、客層がいつもと違っていた。

「今日、人多いな」

仕上げたいレポートがあったのに最悪だと店内を見渡すと、一人で座るマコトを見つけた。あの日、正面からはっきりと顔を見たわけではないのにすぐにマコトだとわかった。これは声をかけるほかないと思ったが、この間の会話からチャラそうな人やベラベラ話す人が嫌いなのは明白。どうしたものかと悩んでいたが、思い切って相席を申し込むことにした。

「すみません。相席いいですか?」

精一杯真面目そうな顔を装って話しかけた。もちろん、笑顔は作れなかった。愛想よく話しかけるつもりだったが、顔が強張って言う事を聞かない。

「…どうぞ。」

もちろん、マコトも笑顔はない。でも、不快感を表すでもなくゆっくり答えてくれた。他に席が空いてないから仕方なく座る事を許してくれた感じだが、それでも有り難かった。

「失礼します。」

座ってからは顔をあげる事なくレポート作成をし続けた。マコトに話しかけたかったが、なんて声をかけても嫌われる妄想しか浮かばない。締め切りの迫ったレポートに追われて、考えている暇がなかったのが正直な所だ。

「ふぅ」

一息つこうと腕時計を見ると1時間半以上経っていた。慌てて顔を上げてマコトを見ると、変わらない姿勢のままスマホを見ていた。俺が勢いよく顔を上げた事で、こちらに目線をくれた。

「…もう出ますので」

そう言うとマコトは店を出ようと静かに立ち上がった。

「俺が出ますので、大丈夫です。」

机の上に広げていた紙類やノートをリュックへ押し込んでマコトに向き直った。

「ありがとうございました。」

少し頭を下げて店を出て振り返ると、店を出るマコトの姿があった。居たたまれなくなって出ると言い出したんじゃなかったのかと思ったが、そうではなさそうで安心した。

マコトを不快にさせなかったことに安堵したのは束の間、あれだけ話しかけなかったことに後悔していたのにすっかり忘れていた。

ハッとして振り返ったが、マコトの姿はどこにもなかった。次はいつ会えるんだろうか。次なんてないのかもしれないが、今の俺には行動を起こす勇気はなかった。

とぼとぼと歩いてバイトへ向かったが、頭からマコトの顔が離れなかった。どうやって仲良くなればいいのかわからない。

脳内シミュレーションしたいが、問題が多すぎる。年下が苦手、と言うより嫌いらしい。俺に勝算はなさそうだが、ゼロではないと思い込む。

気分は落ちていたが、俺はツイていた。翌週もマコトに会えたのだ。いつものコーヒーショップに友達といた。

絶対に話しかけるぞと気合が入っていたのだが、友達といることが気になった。店の外で様子を伺っていると友達が席を立ったその隙に、男の2人組がマコトへ話しかけた。

その様子を見て慌てて店内へ入ってマコトの隣へ座った。

「…そちらは知り合いですか?」

なるべく平坦な口調でマコトへ話しかけた。マコトが首を横に振った事で2人組はそそくさと離れていった。ある程度離れた事を確認してマコトの様子を見た。

「…ありがとうございます。」

小声でお礼を言われてテンションの上がった俺は、親しげになりすぎないように相席をしてくれた事のお礼を言った。

「時間がなかったので助かりました。」

長い会話ではなかった物の、高揚していた。

「お待たせー。あれ、友達?珍しいね、男の友達なんて」

菜々子が帰ってきた。経緯を話しながら、3人の空間を楽しんだ。楽しい時間はあっという間で、いつもなら時間を潰すのに必死なのに今は時間が経つのが早い気がする。

「俺、今からバイトなんです。」

「そうなんだ。」

立ち上がって2人に目をやって軽く会釈をした。

「では、失礼します。」

「え、いいの?」

立ち去ろうとする俺に菜々子が腕を掴んだ。

「連絡先聞かなくて、いいの?」

菜々子に俺のことが心の内がバレているような気がした。いや、完全にバレている。気まずそうな俺に変わって連絡先を3人で交換することになった。

嘉数かかずです。」

ここで初めて名乗った。緊張して声が上ずったが、2人は気にする様子はなかった。

「かずくんね。じゃあ、次はご飯でも行こう。ね、マコちゃん。」

マコトが頷いてくれた事に嬉しくなった。

「では…また。」

菜々子はなんで俺の気持ちがわかったんだ。グイグイ話しに行ったわけではない。と思う。菜々子には感謝をしてもしきれない。これは借りを作ってしまったのだろうか。

男女比が変われば居心地の悪さを感じることが多々あるが、菜々子もマコトもまだずっと一緒にいたいと思える存在だった。

無理に会話に入れようとしてくるわけでもなく、質問攻めにしてくるわけでもなく…今までに知り合った事のない人達だ。

いつ連絡しよう。菜々子の好意で手に入れたマコトの連絡先。スマホを眺めては顔が緩むのが止められない。

「おい、何ニヤついてんだよ。キメーな。」

その日は何度バイト先の先輩に同じセリフを言われたか思い出せない。

そんなウキウキしていたのも束の間、社会人と学生とのギャップが出始めた。連絡先を交換してから2週間は、音沙汰なしだったのだ。卒業を待つばかりの日々で、暇でバイトしている俺と違い、マコト達は朝から晩まで仕事をしている。

(ピローん)

スマホの画面に「菜々子さんからメッセージが届きました。」の文字が見えた瞬間、歓喜に震えた。

落ち着けと自分に言い聞かせ、メッセージを開いた。

『今週の土曜日の夜にマコちゃんと晩ご飯行くけど、来る?』

夜はバイトが入っているが、そんなものはどうでもいい。速攻でバイト先の店長に電話して休みをもぎ取った。

当日が楽しみ過ぎて、待ち合わせ場所に30分以上前に着いてしまった。今まで早く着いたとしても5分前くらいだったのが、自分が一番信じられない。

「来るの早いね。まだ、15分くらいあるよ。」

腕時計を見ていた俺の隣に、俺の腕時計を覗き込むマコトがいた。

「…マコトさんも早いですね。」

驚きを表情に出さずに、言えたと思うが自信がない。横に並んで見下ろすと、なんだか前にあった時とマコトの雰囲気が変わったような気がした。

「2人ともお待たせー。」

予約してあった店へと向かう途中、マコトの変化に気づいた菜々子の発言に驚愕した。

「その髪色めっちゃ良いね。前と違う色だよね。」

雰囲気が変わった思った時に、もっとよく見ておくべきだった。少し明るい髪色だったのが、今は暗い落ち着いた色になっていた。

「入れたてだからね。すぐ抜けちゃうだろうけど、この色良いよね。」

これは気付いて褒めておきたかった。変わった気がしたが、何が変わったのか気づかなかった。

店に入って食事が進み、お酒も入って良い感じに酔って来た頃、マコトが席を立った時だった。

「カズくん、明日もマコちゃんは休みだよ。誘ってデート行け。後、正面突破が一番。」

菜々子のアドバイス通りなら、周りくどい事するなって意味か。誘う時も分かりやすく誘えって事なんだろうが、それが一番難しい気がする。考えすぎると余計にダメになりそうだ。

マコトと入れ違いに席を立った菜々子を見て、誘うなら今だと思った。

「あの、マコトさん。明日って予定空いてますか?遊びに行きませんか?」

「明日、映画観に行こうと思ってて。一緒に行く?」

「行きます。」

あっさりデートの約束を貰えて感動していると菜々子が戻って来た。

「菜々子ちゃん明日忙しい?映画行こって話してて」

マコトが菜々子を誘ってしまった。2人は嫌だったのだろうか。

「明日予定あって、2人で行って来て。」

「じゃあ、2人でも良い?」

「…はい。」

菜々子にまた借りが出来てしまった。デートでは自分で頑張らないと。

その後、3人ともほどよく酔ったところで早めにお開きとなり、明日に備えて解散した。

夕方からの映画を観てディナーの予定をしていた。

「…大丈夫?」

マコトの心配そうな顔が横にあった。映画を観終わった後、顔色の悪い俺を心配そうにしていた。まさか、ホラー映画だったなんて思ってもいなかった。俺は唯一ホラー映画が苦手だ。

マコトの事は予想ができない。俺はわかっていたのに、安易にマコトの好きな映画を観たいと思ってしまったのだ。

「ホラーが苦手だったんだね。ごめんね。」

ここで分かったことは、マコトは恋愛映画を観ない。アクション映画やホラー映画が好き。俺は思っていたより、固定概念に囚われているんだと思い知らされた。女の人はホラーは見ないとか、恋愛映画が好きと思い込んでいた。

でも、好きな人が観たい映画を一緒に観たいと思ったのは事実。カッコつけたいはずが情けない姿を見せてしまった。

「晩ご飯、食べれる?今日はやめとく?」

何も食べれる気がしないが、情けない姿のまま終わりたくなかった。

「もう少し一緒にいたいです。ご飯、行きましょう。」

素直に思っている事を告げる。マコトは俺に遠慮なんてしない。食べたくないなら帰ってしまうし、俺に遠慮して食べないなんて事もしない。これはマコト自身から言われた事だ。無条件に信じる以外ない。変に裏を読もうなんてしなくても、裏なんてないのだ。

気分が少し良くなったところでディナーの予約をしていたところへ向かった。ここではイイところを見せたくて予約したところだった。

店に着いた頃には体調も良くなっていた。まともに食事ができるか心配だったが、予定通りの食事ができた。ゆっくり会話もでき、やっぱりマコトが好きだと認識した。友達ではなく恋人になりたいと心底思うことができた。

「22歳で、こんなオシャンな店知ってるなんて」

年下を強調された気がした。俺なんて相手にしてないんだと、言われているように感じた。

「俺にもカッコ付けさせてください。」

なるべく拗ねた言い方にならないように、できるだけ平坦な口調を心がける。

「カッコイイよ。10歳も年下なんて思わないくらい。」

「…ん、ん?」

10歳?俺と10歳違い?え、じゃあ、マコトは32歳。初めて知ったマコトの年齢に驚愕してしまった。32歳なんてとても見えない。驚いたが落胆したわけでも、好きだと思う気持ちは全く揺るがない。動揺はしている。ますます相手にされないのでないかと不安が襲ってくる。

告白する気がなくなったわけではない。ただカッコつけたかったが、ありきたりな言葉での告白になった。素直に好きだと、付き合って欲しいと。

「ありがと。素面の時に聞きたかったなぁ。」

緊張のせいでお酒が進んでいたのは間違いない。でも、ただの酒の勢いだけで告白したのではない。今は何を言ってもあしらわれてしまうだろう。

いつもは子供っぽい事を言うマコトの、大人な対応に焦ったさを感じた。でも、次のデートの約束を申し込んだら、あっさりしたものだった。

「イイよ。」

マコトの態度には一貫性がない。俺の告白をなかったことにしたいわけではなさそうで、冷静に考える時間を敢えて作ってくれているように感じてしまう。そう言われたわけではない。でも、まるで自分自身に起こった出来事ではないような気さえしてしまう。

何を考えているのだろう。どう思ったのだろう。全てを聞き出したいわけではない。無理に何もかも言わせても、俺には理解できないことだらけだろう。

次の日、2回目のデートの日を待つことが出来ず、仕事終わりのマコトの帰りを駅で待っていた。

「お疲れ様です。」

「かずくん?どうしたの?」

初めてマコトの驚いた顔を見た。新しい表情を見れたことにテンションを上げている場合ではない。が、可愛い。

「ちょっと話、イイですか。」

帰宅ラッシュの人混みを抜けて、ビル郡の間にある公園へ場所を移した。冷静になって考えても、マコトが好きだった。10歳下なんて相手にされないだろうが、自分の気持ちを伝えないまま終わりたくなかった。まぁ終わらす気なんて、さらさらない。

「俺の気持ちは変わりません。付き合ってください。」

今日は素面だ。グダグダ遠回りした言い方をしたく無かった。気合は入りまくっていた。そんな俺の様子を無表情なままのマコトが見ている。

「イイよ。」

あっさりしていた。シンプルな答えだった。

マコトにはいつも驚かされる。この答えもそうだった。目が合うと少しはに噛んだ表情になって、俯く姿を観て抱きしめる手を止められなかった。

「ありがとうございます。」

「こちらこそ、ありがとう。これからよろしくね、かずくん。」

そんな変な彼女と、少し変わった恋人同士になった。想像の斜め上を行く彼女は、俺を飽きさせる事がなかった。

「あ、一つイイ?」

「なんですか?」

やっぱり付き合うの無しなんて言い出してくれるなと心底思ったが、そんな話ではなかった。

「マコトってニックネームで、本名じゃないんだ。」

俺はこれからも、台風のような彼女の言動に、行動に驚かされる。もちろん、驚かそうなんてマコト自身は1ミリも思っていない。

人それぞれ、考え方が違うだろう。でも、本人の言葉を素直に受け止めて行動することの大切さをわかって欲しい。勝手に解釈して、勝手にその人を決めつけて欲しくない。これは、人の言葉を信じ行動に移せた人のストーリーだと思っている。

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