曖昧で不安定なプロローグ
初めまして。
私は、表と裏との間に住まう案内人。名はございません。お好きなようにお呼びください。
案内人、というとあたかも人間かのように思われてしまうかもしれませんが、私をホモ・サピエンスとして定義づけるのは少々無理があるところでございます。
しかしながら、私は人間ではない、と致しますとそれもまた間違いであると言わざるを得ません。
当然この理論は矛盾しておりますし、どう解釈しようと不可解な文章であることは明白です。
なにより、私自身が私という存在に違和感を感じずにはいられないのです。
そんな曖昧かつ不安定な私めが一体どこに案内などするのだろうかと申しますと、恐れ多くも、それもまた曖昧で不安定なわけでございます。
ある時は、思い出の場所に。ある時は、神の御前に。またある時には、存在の概念がない世界へとお連れしたこともございます。
その行先は人それぞれ。
古今東西、天国地獄、記憶、現実、絵空事。
どんな世界のどんな場所であろうと、私の足はそこへの道を知っているのです。
曖昧で不安定な案内人は、だからこそ何処へでも行けるのです。
時間も空間も存在しないこの案内所に、あなた様がどのようにいらっしゃったのか、または迷い込まれたのかは私の知る由ではございませんが、何か物事が起こるとき、そこには必ず一つ以上の意味があるものでございます。
もちろん、あなた様が望むのなら、今まさに始まろうとしている新たな一つの物語を、夢物語としてしまうこともやぶさかではありません。
ですが、もしあなた様がこの物語に秘められた意味を見出そうとするのであれば、私が案内いたしましょう。
曖昧で不安定な、それでいて確かにそこにある、フィクションという名の真実へ。